今年に入って古典SF小説に手を出したあたりから、なんとなく流れでSF作家の著者・柞刈湯葉先生のお名前は知っていた。その後に「まず牛を球とします。」という本が出ていたのも、知ってはいた(Youtube番組で紹介していたんだと思う)。そして私は、有意義なことが聞きたいっぽい気分になった時、「いんよう!」というポッドキャスト番組を聴くことがあるのだが、そこでも「まず牛を球とします。」の話が出てきたので、私の領域にかなり侵入していることを知り、焦ってしまった。分かった!いつか読もうと思っていたけれど今読むから!ネタバレは待ってくれ!
そういうわけで、このSF小説短編集を手に取った次第である。このブログを読み返すと、10月上旬くらいからチマチマ読み進めとるな(10/7、10/15、10/19)。短編小説集って久しぶりに読んだかも。1ヶ月くらいかけて読んでいるので、記憶に誤りがあるかもしれないが、最近のSF小説って、無闇に煙草を吹かす科学者とかが出てこないんだな?ソ連も出てこないし……新鮮だな……(?)
以下感想。
・まず牛を球とします。
なんでも科学技術で改造が出来るようになってくると、人間の、なんだろう、人間性?倫理?道徳?がその利便性に振り落とされることあるよなあ。思想だけなら大体ことは素晴らしい理想論なんだけど、そのイデアを見ようとする現実社会の人間どもの器が追いついてなくて、なんか平たい、うっすらキラキラした地獄の顕現が観測されるというか。共産主義とか宗教とか……。それも人の文化なんだよなあ。なんの話してる?仙台行って牛タンが食べたい。
・犯罪者には田中が多い
急に『三毛猫ホームズ』『ニコニコ大百科』という単語が出てきたので、にこにこしてしまった。単純。読み終わった後、待てよ、作家くんがここまで悔しがる理由ってなんだっけ…?と首を捻りながら読み返した。ああ、彼の創作する主人公にはギャップが足りないって悩んでいたって話があったか!普段小説を読まないから、私は伏線の掴み方が本当に下手。
・数を食べる
私は理数系が壊滅的なので、逆に数字の概念の話になってくれて助かった。(助かってない)
とはいえ、数学はなんか「理解できなさそうだけど、人類には割り切れるもの」っていう認識なんだけど、概念は逆に「理解できそうだけど、マジで理解できるやつなんかおらんし、その上で理解できたら怖くない?」ってもんのような気がして、そういう(分からなさそうでわかるもの+分かりそうで分からんもの=わか、わからな、わか、わか?え?あ?みたいな)系統のホラーかなあと思ったりもした。
・石油玉になりたい
ちゃんと小説を読まないうちにググったりする無作法をカマすと、こういうことになる。
・東京都交通安全責任課
つまり、人間は、自分が作り出した時代って創作物をちゃんと乗りこなすスキルが足らないってコト!?(???)
・天地および責任の創造
かといって世界って創作物に対して、ちゃんと創造主が責任を持って辞めることで世界は大惨事になったから、飼ったペットの面倒は最後まで見るのが大事ってことだね……。
ぜんぜん関係ないんだけど、責任をとって辞めるってことの意味不明さが私も分からなくて、それはおかしいよ!って教えてくれたのが、ブラック企業に勤めていた時のブラック上司だった(最後まで辞めずに仕事をこなすことが責任であって、辞めて逃げることは責任じゃねえから!って辞めさせてくれなかった、私は朝5時まで仕事した)の思い出して、一人でフフッと笑ってしまった。
・家に帰ると妻が必ず人間のふりをしています。
家庭という絶対的に安心感があるはずの場所に、理外の怪物がいる。ははーん、さては人間社会の風刺だな?毒親とか鬼女とかDV夫とか、家庭内にもいるからね。人間に見えるニンゲンは怖いね。と思ってしまったが、後書きを見たらそんなことじゃなかった。ただただ2ちゃんの家庭版を見ていたことがある自分を自覚しただけだった。お恥ずかしい。
・タマネギが嫌い
具体的なタマネギの話をしているんじゃねえんだよ、概念のタマネギが嫌い(だからあらゆるタマネギが嫌い)って話をしてるんだよ!ってこと!?
・ルナティック・オン・ザ・ヒル
なんとなく『星を継ぐもの』を思い出しちゃったな。5万年後、月面上で、この謎の死体が2つ見つかって欲しいな。
・大正電気女学生 ~ハイカラ・メカニック娘~
俺は大正のことを何も知らない……。ただ、大正の少女の主人公は『お淑やかに見えて、最後は大きな決断をし、男に逆らう(父親を切る、違う男と逃げる、嫁いだ先で不倫をする)』というテンプレが人類史にあるような気がしていて(?)、その阿頼耶識の名残を感じられたので、よかったです(??)
・令和二年の箱男
箱男ってなんだろう?と思ってググったら(中略)、こっちは実在している小説じゃねえか!
よくも騙したァァァ!!
・改暦
やっぱ人間、一度は「トムソーヤの冒険」みたいな世界を描いたとしても、歳を取ってシステムを理解しちゃうと諦念抱いて「人間とは機械である」みたいな本を描きがち(マーク・トゥエインをディスるな)
・沈黙のリトルボーイ
科学と天運で見出すボーイミーツジャパン。
・ボーナス・トラック・クロモソーム
これ!最後のこれが私にとって一番面白かったかも!面白かったというか、主人公の考えに「わかる〜〜」ってなったので、背景を考えたり没入したり思考を追ったりする時間が気にならなかった。
あと、私が昔バンギャやってた頃、なけなしのバイト代で買ったマイナーバンドのCDの最後のボーナストラックに、2分48秒のブランクのあと急にハードめの音楽がかかる仕掛けに遭遇したことがあり、テンションが激上がりしたことを思い出した。
以上。いろんな仕掛けがあって面白い本だったな。