「小説」の記事一覧

読書:魔女の宅急便 / 角野栄子、林明子

水色チェックマークのあるタイトル作品のネタバレを含みます

有名なジブリアニメ『魔女の宅急便』の原作にあたる小説。子供向けだとは思うのだが、本に印刷された文字は少し小さく漢字もあるので、小学生の高学年向けといった感じだろうか。児童書?の範疇に当たるかどうかちょっと不明なところ。この本を見かけた際、「魔女の宅急便って原作あるんだ!?」と不意を打たれてしまい、そのまま手に取った。え!?魔女の宅急便って原作あったの!?じゃあとなりのトトロも、もしかしたらあるのか……?と思ったけど、トトロ関連の大量のグッズ展開を見るにジブリオリジナルっぽそうなんだよなあ。ともあれ、『魔女の宅急便』は元々などんな小説で、どのようにジブリに魔改造されてしまったのかを確かめるべく、いざ鎌倉!

魔女の宅急便 / 角野栄子、林明子

色々覚えていない設定が出てくるな。魔女の家系に生まれたキキは、二つしか魔法が使えない。母は魔女、父は民俗学者の(おそらく)日本人。魔女の技術は年々失われつつあり、今ではキキの母も2つしか魔法が使えない。箒で空を飛ぶことと、薬草を育ててくしゃみの薬を作ること。今は数を減らしつつある魔女だが、その魔法の存在が今もあることを知らしめるべく、年頃になると他の魔女のいない街にひとり立ちする風習があるそうだ。ちなみに、魔女になるかどうかは、本人で選べるらしい。人権!あと、魔法とはカテゴライズされないのだが、魔女は連れ添った黒猫と二人だけのおしゃべりができる能力があるらしい。そう言われてみれば、黒猫のジジはしゃべるけれど、キキ以外と会話していた覚えがないような……記憶が曖昧!そしてこの猫は、魔女が自分と変わる相手と結婚すると、魔女と別れて自分も相手を探しに出ていくらしい。そんな設定あったの!?じゃあキキが、あのそばかすボーイとくっ付いたら居なくなっちゃうんだ!?(アニメにこの設定を適用するならば)

アニメではあまり掘り下げられなかった、キキの身内周りの設定が面白い。キキの母は古い魔女の血を絶やしたくない伝統主義だし、キキはそれに不満を覚えて「何もかも新しく変えたい」みたいな心境で、一人暮らしを望んだのかな。とはいえ、箒に乗って空を飛ぶという魔法はとても好きだし、「魔女になってひとり立ちする」と決めたら、もう5日後の満月の夜にひとり立ちするし、魔女は黒い服しか着れないという縛りに反発するし、魔女や魔法が廃れたのは世のせいではない、魔女が遠慮しすぎたせいだ、私は人になんて言われるのか気にして生きるのは嫌、とはっきり口に出せる子なので、アニメよりちゃんとした女の子という印象がある。私は原作のキキが好きかもしれない。

そして、心配していたジブリの改変なんだけど、やっぱりあらゆるところに手を加えているなコレ。初めて旅立った日の夜、出会った魔女の先輩、普通にいい人だった。嫌味なんて言ってこない。初めてついた大きな街の人々の、魔女に対する無関心さに心傷つきながらも迎え入れ、寝床を提供し、キキのやりたいことについて相談に乗った上に「おとどけ屋さんより、宅急便屋さんがいいわよ。魔女なんだし、魔女の宅急便っていうのはどうかしら?」と提案してくれる神対応のパン屋のおかみさんが居たりもした。こんなキーパーソン、アニメに居たっけ!?ジブリくん!?

しかしなかなか示唆に富んだストーリーだな。キキの母が居た街では、魔女が生活と結びついていて、誰もが大事にしてくれた。しかし、魔女の存在しか知らない大きな街では、魔女の存在を知らず、煙たがる人も出てくる。キキは項垂れた。「どうして魔女は悪いことをするって決めちゃちゃうの?」「人間って自分が理解できないことは、簡単に悪いことにしちゃったのよね」。原因をなんとなくでも推測し、その上でジジと「じゃあもう少し自分たちを知ってもらうように宣伝が必要、行動しよう」って方向にすぐ持っていけるので、観ていて安心できる。主人公コンビとしてのレベルが高い。そしてキキ、生き方が強いな。アニメに出てきた男の子に商売道具の箒を奪われて、そのせいで命懸けの人命救助を行い、挙句男の子に箒を壊されてしまって、涙ぐんで恨み言を言って、でもその後すぐに仕方ない、新しい箒を作ろう、魔女の仕事ってなんとか笑えるの立派すぎる。まだ13歳の女の子だよ……。

面白かったところ。トネリコの枝で空飛ぶ魔女の箒を作ると判明したところ。大人が困っている場面で、魔法ではなく頭のよさで解決したところ。ニシンのパイの話が出てこなかったところ(続刊に出てくるのか、ジブリオリジナルなのか)。大きな街の若い市長が、自分の見栄のためにキキに泥棒行為を強要して、思わず二度見したところ(13歳の女の子にさせることじゃないやろがい!)。せっせと自分の仕事をこなして大きな街の人たちに信頼されるようになり、成長したキキが、最後の方で、両親のもとに一度里帰りをしたところ。そして、日も立たないうちに、いつの間にか『自分たちの街』になっていたあの大きな街に帰りたくなったところ、

アニメの『魔女の宅急便』は雰囲気や音楽が好きなんだけど、原作の『魔女の宅急便』は、世界観、温かみのある登場人物、キキの勇気と学び、臨機応変さが本当に良かった。続刊もあるようなので、また機会があれば見てみたい。

読書:徒然草 ストーリーで楽しむ日本の古典 / 那須田淳、十々夜

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「まんがでわかる歴史シリーズ」みたいな、児童学習向けのコーナーでふとこの本を見かけ、そういえば徒然草読んだこと覚えないかも……と思って手に取った。

徒然草 ストーリーで楽しむ日本の古典 / 那須田淳、十々夜

表紙から見て、てっきり学習漫画だと思っていたんだけど、徒然草の著書・兼好法師の遠縁にあたる、オリジナルキャラクターの女子からみた兼好法師……みたいな感じの小説だったな。児童向けなので、文章はとても易しく、よくわからん時代の描写を視覚化するイラストも相俟ってか、スイスイ読めるのが助かった。いい時代!

兼好法師は鎌倉時代末期(1300年くらい)に活躍して、日本三大随筆の一つとされる『徒然草』を書いた随筆家であるらしい。もとは天皇に仕える官人でもあり、歌人の才も持つという、隠居した後も政治の相談など、人に頼られる人であったっぽい。本名は卜部兼好(うらべ・けんこう)とされ、吉田流卜部氏の系譜に連なり、政治の吉兆を占う神職の卜部家の元当主らしい。へ〜、うらべ……卜部…卜部!?!?

日本の古典を読んでいて、いきなりオタクの血の方が騒ぎ出すなんてことある?あるな……。

この本は「徒然草」というよりは、「嫁入りを控えたオリキャラの少女が、徒然草を書いた親戚のおじさんと少年2人と一緒に住み、その人柄や活躍などを観察することで、兼好法師がどんな人物であったか伝える」という創作がメインなのだけれど、徒然草についての語り草がとてもよく、いきなりブチ込まれた「卜部家」という経歴も相俟ってメチャクチャ興味が湧いてしまい、随筆としての徒然草も読んでみようという気になった。ストーリーで楽しむ日本の古典、よい学習シリーズだったな。

読書:星を継ぐもの(その4) / ジェームズ・P・ホーガン

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星を継ぐもの / ジェームズ・P・ホーガン

先日の続きから一気に読了。
木星へと旅立った主人公ハントくんが、その途中、小説の前半でバチバチやらかしてたダンチェッカー教授とささやかなジョークを言い合ってコーヒーを飲みに行ったり、食堂に誘って互いの意見を求めたりするあたり、感慨深いな。月面で見つかったチャーリーたちの遺体とはまた別の種族である、木星衛星ガニメデに住む巨人(ガニメアン)の話について。主人公は、チャーリーの手記から度々「巨人並みの頭脳」「巨人が現れる以前も昔」みたいなワードが出てくるのが気にかかるとのこと。巨人の亡骸自体は見つかっているし、神の視点から読んだこの小説のプロローグでは、チャーリーと巨人が一緒にいたことはわかっているので、まあお互い何か共存関係にはあったんだろうな。そして、どうやらチャーリーたちの住んでいた惑星ミネルヴァから、この星由来の陸棲生物は突如消えていたのでは?と言う疑惑が立ち上がる。巨人が伝染病を持ち込んだのでは?いや、巨人の文明レベル(宇宙服着て死んでたチャーリーたちより数段上の科学力を持っているものと思われる)からいってそのようなミスを犯すとは考えづらい。主人公とダンチェッカー教授がタッグを組み、導いた答えは「空気中の二酸化炭素濃度が急激に増えた結果、ミネルヴァ由来の陸棲生物は死滅した。巨人は、それらの環境を回復するために、大型輸送宇宙船に大量の動植物の標本を持ち込んでいたのだろう。すなわち植物は二酸化炭素濃度を吸い込んで酸素に変え、動物は植物の拡張や成長を促す」、アー!?そう言うこと!?!?!?!そしてその結果を聞いて、有能な二人が個人的なことで反目することをやめ、協力し合い、更なる結果を叩き出したことにニッコリ微笑む国連宇宙軍のお偉いさん。お、おもしれえ〜!!小説が面白い。小説って……面白いんだな!?(そりゃそうよ)

ここからはもう一気に怒涛の種明かしで、ページを捲る手が止められず、最後まで一気に読んでしまった。星を継ぐもの、ものすごい力のあるSF小説だったな。我々はもう、『人間』の歩みを止めることはできない。そうやって、今までこの種を繋いできたのだから。本書は、小説ってメッチャ面白いんだなってことを思い出させてくれた傑作だった。もっと早くに読んでおきたかったな〜と思わないでもないが、きっと今読んだからここまで面白く読めたんだろうな。物語も、あらゆる分野の超エリートたちが力を合わせて最大の謎に立ち向かう、という感じだったから、生物学、言語学、数学、天文学、地質学、人類史、その他諸々の知識がうっすら無いと手放しで面白がれなかったかも。10〜20代の私には難しい本だっただろうな。歳をとってよかった。

読書:星を継ぐもの(その3) / ジェームズ・P・ホーガン

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星を継ぐもの / ジェームズ・P・ホーガン

先日の続きから。この主人公、メチャクチャよく働くな。国連宇宙軍のお偉いさんから指名されて主任となって以来、縦横無尽に専門家の元へと駆け巡り、とうとう「ルナリアンたちの母国・ミネルヴァで大規模な宇宙戦争があったのでは?五万年前には、高度な兵器(核)があったことが予想される。発見されたチャーリーたちは探索隊の一つであったが、月面裏側に集中している大規模な隕石落下によって痕跡が抹消されたものと思われる」みたいな説まで出してきて、SF小説おもろ〜ってなっている。
月面で見つかる五万年前の遺体!宇宙服を着ていて高度な文明を持つと予想される!次々に見つかる彼らルナリアンたちの遺体!彼らの食糧だったと思われる、地球にはない生態の魚が見つかる!エー!?月面の隕石落下クレーターは実は超融合爆弾の痕跡だった!?そして見つかる……母惑星・ミネルヴァの存在!これがSF小説なんだなあ。読んでいて、童心に帰ってしまった。ワクワクする。

同時期に見つかった木星の衛星ガニメデに乗り込んで調査したところ、プロローグで出てきた、人の良い巨人の亡骸も出てきた。ガニメデ?ガニメアン?急に出てきたが、地球人と同じような人間のチャーリーとはまた違った人種(巨人)で、やっぱ宇宙間戦争があったのでは?と思わされるな。プロローグでは、この巨人はチャーリーたちに味方していたように思えるが、複数の惑星ごとに文明があったとなるとな。ここで見つかった言語と、チャーリーが所持していたものから見つかった言葉が照らし合わされて、言語解読が進むというのも面白い。五万年前、地球も氷河期だったが、このミネルヴァという星も氷河期だった。氷河期は、この辺り宇宙一帯の現象だったのではないか?というのも面白い。えー、さっきから面白いしか言えてないんだが。そして地球よりも太陽から遠いミネルヴァは、この氷河期というものがかなり深刻な問題だった。このために、他の星への移住を検討する必要が出てきて、見つかったチャーリーたち探索隊はこの使命を帯びて月まで出てきたものと思われる。しかし、ミネルヴァは資源が不足している星だった。技術が発達し、もし他の星へ移住できるとしても、星の全員を移動させるのは無理だ。選ばれしものだけの手段となる。そこで対立が生まれたのではないか。大型輸送宇宙船から見つかる大量の動植物の標本。地球人の祖先に近い品種!お茶でも淹れこよう、といったん閉じた本の表紙刻まれた『星を継ぐもの』のタイトル!星を…継ぐもの!お、面白〜!!!!!!!!!

言語解析が進み、最初に見つかった遺体・チャーリーの日記が解読される。そこで綴られる任務の日々、戦争の状況。彼らの母星ミネルヴァとは一体どこにある星なのか?もしかして地球か?白熱する議論!見つかる物品!新たな議論!それを中立の立場で見守る俺たちの主人公が、木星へ旅立ったところで、本日はここまで。はちゃめちゃに面白いんだが?

読書:星を継ぐもの(その1) / ジェームズ・P・ホーガン

水色チェックマークのあるタイトル作品のネタバレを含みます

星を継ぐもの / ジェームズ・P・ホーガン

だいぶ前に手にとって放置していたSF小説を読み始めた。裏表紙に書かれたあらすじでおおよそのストーリー導入を事前に知らされているのだが、しばらく読み進めてもその導入まで辿り着かず、いつ始まるんだよ……と、自分の気の短さに気付かされている。ともあれ、頭脳明晰な主人公のハントが、国連宇宙軍のお偉いさんに呼ばれて、月面で見つかった正体不明の遺体(宇宙服を着ているが、5万年以上まえの遺体と思われる)の調査をするところから始まる。ハントくんは、お勤め先で特殊なスキャン装置の開発に成功しており、そのスキャン装置が検死に必要とされてお呼ばれされた。5万年以上まえの遺体なので、下手に動かすとボロボロに崩れるため、動かさずに透視するような感じでスキャンを行い、ハントくんはある一定の成果を出す。例えば、遺体の所持していた手帳に書かれた謎の言語、謎の文字列。おそらく遺体の文明は12進法を使っとるなあ、でも、遺体は我々人間と全く変わらない(10本指)だよなあ、とか。しかし明らかに我々以上の科学技術を持っているとんでもない遺体の発見だったため、ハントくん以外にも色んな分野の人間が呼ばれており、この遺体、通称チャーリーの正体を探るためバチバチの討論が繰り広げられーーみたいなところまでで本日はストップ。P85まで。

ソッカの美術解剖学ノート / ソク・ジョンヒョン

家で文鎮となっていたメチャクチャ分厚い美術解剖学の本。韓国のイラストレーターさんが書かれたもので、当時話題になったときに買ったのだが、私が積極的に絵を描くタイプの人間ではないため、長らく放置をしてしまっていた。こんな高い本(6700円+税)を放置すな。

重い腰を上げて、ようやくページを捲ったのだが、絵を描く人の視点から見た「生物の定義」とかの説明が予想外にとても面白かった。

生物の絵を描くには『生物』を描かなくてはいけない。生きているものを生きているように描かねばならないのだ。では、生物とは何か?それは、「繁殖することができ、自ら生きて行動するもの」だ。生物は動くようにできている。動かなければ生きていけない。一人で生きていくためには、自ら、動く必要がある。では動くのは、なんのためか。繁殖や食事といった生存の欲求のため。また、広く見れば、あらゆる行動は、自分を曝け出して、自分が生きていることへの確認を行うためだ。生きているということは、動くという一連の過程を意味するものではないか?生物は、動くためにある。これを前提とすれば、人体を描くことへの理解が簡単になる。みたいなところまでで本日はストップ。お、面白え〜!絵を描く人が見る生物っていう視点がとても興味深く読むことができた。P25まで。