「エッセイ」の記事一覧

読書:君のいた時間 大人の流儀Special / 伊集院静

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年末年始の急激な体調悪化と帰省を言い訳に、随分と読書をサボることが定着してしまったが、なんとか伊集院静先生の本を一冊読めたぞ。

君のいた時間 大人の流儀Special / 伊集院静

私が知っている著者の情報については、(全くの個人的偏見なのだが)LEONとかで掲載していそうな大人の男についてのエッセイを書いていそう、島耕作の著者と対談とかしたことありそう、という色眼鏡で曖昧なイメージだったのだが、この著書『君のいた時間 大人の流儀Special』は、亡くされた愛犬・ノボくんについてのエッセイをまとめられたもので、なんだかちょっと意外性を感じ、読み進めることができた。

内容としては概要以上に語るべきことはないのだが(本当にノボくんが家にやってきて育ち、老い、亡くなるまでのエッセイ)、犬という種族の家族を作るということは、家庭環境に大きな影響を与えるんだなあという、当たり前と言っては当たり前ことなのだが、その想像を補強する説得力のある文章でしみじみとさせられた。あとは、人間ではないが家族であるという範疇の対象についてのエッセイなので、家庭内の、限りなくプライベートであることを思わせる描写も多々あり、伊集院静先生に対する印象が少し変わったかもしれない。
とはいえ、近所の犬の飼い主を「人妻」「新妻」と呼んだり、「今まで付き合った女たちの大半に犬の爪の垢を煎じて飲ませたい」「私が下半身のことでこれだけ厄介ごとを抱えたり悩んだりしたんだ」などと、私の中にある『昭和のオッサン偏見像』もそこそこに補強してくれたので満足したりした。愛犬が亡くなられることが前提なので湿っぽい話になりそうだものだが、そこは今まで500冊の本を出してきた先生、気持ち軽く読ませてくれるので、犬好きなら共感できるエッセイなのかも。

読書:兄弟姉妹の心理学 / 根本裕幸

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心理学か〜なんか兄弟姉妹間でのそういった論文でもあるのかな、著者は大学の心理学の先生とかなのかな、と思って読んだら、普通に心理カウンセラーを名乗る著者の主観っぽい本だった。そんなことある?現代社会のエビデンスとやらに毒されて生きているため、手相や占星術、血液型占いと同じような「いわゆる現場の統計学ってヤツですよ」理論の新刊に出会うのは久しぶりで、返って新鮮に感じてしまった。

兄弟姉妹の心理学 / 根本裕幸

昔、兄か姉が欲しかったなあ〜と言うことを思い出した。

兄弟姉妹がいたり、一人っ子で兄弟姉妹がいなかったりすることは、確かに人格形成に影響を及ぼすだろうな〜と思う。身近にいる人間の影響を受けない方が難しいし、それに染まったり反発したり、嫉妬したり支配を避けようとしたり、そういった反応は各々にあるだろうなあ。その反応を兄弟姉妹の関係まで狭めてパターン化しました、みたいな大衆受けするコンテンツで、週刊女性自身のコラムにあっても全然違和感がない内容だった。

目次から適当にそれっぽいタイトルを拾うと「なぜ妹は姉に嫉妬されるのか」「母も加えた女同士の争い」「弟を巡る母と姉の争い」「同性三人きょうだいの異性化」「なぜ三人きょうだいの真ん中は孤独なのか」「姉がいる弟は女性に幻想を抱かない」などなど。これらのタイトルから連想されるような内容が展開される。

私が10〜20代の頃にこの本を読んでいたら「ウンウンそうだよね……姉と妹の関係はそうなるよね……」みたいな感じで頷けたとは思うのだが、一人暮らしのまま30代半ばを過ぎると、兄弟姉妹が実生活の視界に全く入ってこないから、性格形成や感情抗争云々の話が既に過去の出来事になって忘れてるんだよな。だからこの手の泥沼心理学も、うっすら身に覚えっぽいものがありつつも、とくに実感が湧かなかった。人間の性格はいろんな要素で日々変わったりするからなあ。必ずしも、兄弟姉妹の順番と位置だけで、死ぬまでずっとこの本の主張の境遇だとは思えなかったな。ただ、家族における自分のポジションのパターン化を受け入れることで、認知負荷が下がって気が楽になったり、あ〜これって私だけじゃないんだって思える人もいるだろうから、家族間での互いの距離が近いところにある人や、そういった悩みを持つ人には向いているのかも。

あっでも、私もこれを読んで過去の己の所業を振り返り、被害を受けた母や妹たちには本当にごめんね…と言う謝罪の気持ちは芽生えました!

読書:積み木シンドローム The cream of the notes 11 / 森博嗣

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ミステリ小説『すべてがFになる』で有名な森博嗣先生のエッセイシリーズの11巻め。先日から体調を崩しており、とりあえず今日は家で大人しくしていようとしていたこともあって、新刊を発売日に買って読むという、私にとって滅多にないコンボをキメられたことは大変喜ばしい。

積み木シンドローム The cream of the notes 11 / 森博嗣

このエッセイシリーズを手に取るたび、「私はなぜこの本買ったんだっけな……」という自問自答を繰り返している。良く言えば森先生のファンだから、悪く言えば惰性なのだが、最近このシリーズ時事ネタが挟まれているためマンネリすぎないのも理由だろうか。みたいな感じで特に期待せず読み進めたのだが、なんだか今回ずっと面白く感じたな。話題としては近年のコロナにウクライナ情勢、ヴァーチャルに政治という興味関心が一定量あるものだったし、Youtuberの話が出た時は予想外で二度見してしまった。また、エッセイを読んでいる最中に、「世界の一部で進んでいる少子化、子供の数が少ければ少ないほどその希少価値が上がるし、世代間の競争率が下がるというメリットもあるかも、ということは親になることは、マンパワーに加えて希少価値が付加された資源を持つという野暮な考えもできるのでは」みたいな野暮な考えしたりもできたし、いろんな考え方や切り口を見ることができて面白かった。去年のエッセイも同じような感想だった気もする。来年のエッセイも同じ感想なのかもしれん。その確認も含めて、楽しみにしているシリーズだと言える。

読書:モーム語録 / ウィリアム・サマセット・モーム、行方昭夫

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ウィリアム・サマセット・モームの作品集からのハイライトを抜き出した語録本。今でいう、Youtubeでいいところを集めた切り出し動画みたいな位置付けかとは思うが、さすが、大体の人間がうっすらタイトルだけは聞き覚えのある『月と六ペンス』という小説で有名になった作者の語録だけあって、大変良かった。

モーム語録 / ウィリアム・サマセット・モーム、行方昭夫

ウィリアム・サマセット・モームは昔の大作家、具体的にいうと1874年〜1965年(没91歳)の間に活躍した方とのことで、今の時代を生きる私(イキリ)と感覚が合うものか……?と、読む前は少し不安視していたものの、大半の価値観にはしっくりくることが多くて、さすが大作家だと思わされた。

この本は小説や自伝から抜き出された語録集なので、前後の文脈は分からないことが多いのだが、持ち前の人間観察眼を武器に、簡素に明確に、誰が見ても分かりやすい文体で、シニカルではあるが度を過ぎない表現でスラスラ書かれた文体・内容はとても理解しやすい。本当に売れてる作家の力量ってこんな感じやで、と突きつけられた感じがした。

そこそこに厚みのある本のだが、なんとか読み通せたのは、初っ端から『幸福とは、快楽の持続した状態であるとしか定義できないのだ(P4)』ときて、「わ、私と同じ価値観だ〜!!」とテンションが上がったことが要素として大きい。人生は幸福になるためにある、という考えは捨てて良い。幸せでない、などと幸福の尺度で全てを図ることはしなくて良い。大体の不幸には、なんらかの埋め合わせがある。幸も不幸も人間の人生の模様である、みたいなくだり、「Fateのマーリンはモーム読んだ?」みたいな浅い感想も芽生えるのだが、概ね共感はできる。

共感できないところは、やっぱ時代ならではの女への価値観と恋愛観に関する語録の一部かなあ。でも、「最も長続きする恋愛は報われぬ恋である」「恋愛がある限り、憎悪、悪意、嫉妬、怒りは必ず付き纏う」ところは、この価値観で書かれた小説読みてえな〜!と思わされたな。

「金銭とは第六感のようなもので、それがなければ他の五感もあまり働かない」という箇所は、暖房電気代をケチろうとして寒さに震えていた先日までの私を思い出すし、「私は苦悩が人を気高くなどさせないことをはっきり知った。苦悩は人をわがままにし、卑屈にし、ケチにし、疑い深くする。人を本来の性質より良くはしない。悪くさせるのだ」の件はブッダが苦行を否定したところにも似通って、素直に頷くことが出来た。

語録をパラパラと見るだけでも、確かに評判通りの、観察眼鋭い大作家だったんだなあというのが伝わってくる。著書『月と六ペンス』と引用の多かった『人間の絆』、読んでみるかなあ。

読書:人生で大事なことは、みんなガチャから学んだ / カレー沢薫

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カレー沢薫先生の「この人、努めて冷静に『気が狂って20年!』みたいなモンを書いたり描いたりするよな……」的なエッセイだったり漫画だったりが好きで、ちょいちょいといろんなコンテンツを読んでいる。そのうちの一つであるこのエッセイ本は、後半になるにつれ、いつもの笑いが謎の感動に変わるので、読み応えがあった。刀剣乱舞のへし切り長谷部と、土方歳三に沼った一人のオタクの生き地獄だけで、1冊の本になることなんてある?こわ……。

人生で大事なことは、みんなガチャから学んだ / カレー沢薫

とはいえ、カレー沢先生は既婚者であり、エッセイを書かれるきっかけも、夫婦で生きるメディア『TOFUFU』という媒体からの依頼だったため、基本はリアル結婚生活をベースに書かれている。と思う。ただ、先生自身は夫婦生活を題材に書くことは避けてきたらしく、その気持ちを見かねた編集さんが、逃げ道としてオタクの話(二次元の推しと結婚生活)とかしていいですよ……と勧められたっぽいが、先生自身は「正直それもなあ……」と言うお気持ちだったのかもしれない。多分、奥歯を噛み締めながら、リアル夫婦生活とオタクの話の両方を無心の反復運動で書いているんだろうな……という偏見が過ぎる読みをしながら読み進めたが、最後にはタイトル回収してくれるので涙が出ちゃった(笑いで)。なんやかんやで、面白いエッセイを読ませてもらったで!というハッピーエンドスマイルにさせられてしまうあたり、カレー沢先生の『とりあえずで自分を切り売りできる作家』というストロングスタイルの強みを見せつけられた気がした。

面白かったところ。多種多様な表現であらゆるオタクの悲しみを表現するところ(旬の過ぎたジャンルにハマってしまったオタクが焼け野原を見て呆然と立ち尽くしていたり)。尽きることのないへし切り長谷部という名の命の泉。刀剣乱舞のアニメ、花丸の方ではフワフワだった兼さん(和泉守兼定)が、アニメの活劇の方では「兼さんが大卒だ」と騒然とされるほど賢マンになっていたこと。徳川家康が敗走時ウンコを漏らした時、屈辱を忘れぬために肖像画を描かせたことを「私もそれに倣ってFGOの土方さんガチャで〇〇万溶かして撤退した時の顔を写メって待ち受けにするべきだった」とか言い出すこと(教養の使い方)。ガチャ沼。あとガチャ沼の話。かくいう私も、FGOやメギド72、ミラクルニキといったソシャゲにまあまあの課金をしていたので(控えめ)、非常に身につまされる思いがした。で、でもさ、ガチャってストーリーとか勧めなくてもできるんだよ?ポチポチするだけで直ちにアドレナリン出るんだから、コスパはともかく、今流行りのタイパってヤツはよくない?ダメだ、30代前半で封じたはずの愚かさが、オタク特有の早口となって臓腑からまろび出そうになっている。今日はここまで!