漫画:マンガ日本の古典(25) 奥の細道 / 矢口高雄

水色チェックマークのあるタイトル作品のネタバレを含みます

先日に引き続き、松尾芭蕉の「おくのほそ道」を題材にした学習漫画のシリーズを見て行こうと思う。

▼前回

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著者の矢口高雄先生は『釣りキチ三平』などで知られる有名な漫画家で、恥ずかしながら私はその漫画を読んだことはないものの、自然描写がメチャクチャ上手く描かれる方だというのは知っていた。その先生が自然の中を旅しながら句を創作する芭蕉の伝記を描いていると聞いて、「これは見たいヤツだ……!」と手に取った次第である。

マンガ日本の古典(25) 奥の細道 / 矢口高雄

漫画だからスラスラ読めるよね✌️と舐めたことを思っていたら、一コマ一コマに収められた矢口先生の緻密な風景描写と、執念すら滲み出る時代背景の情報量で、めちゃくちゃ時間がかかってしまった。

まずは初っ端の見開きページ、夕暮れの山里に対する超絶技巧の風景描写の細かさで殴りかかられて、その緻密な筆の運びに「おっと……?これは随分と情報量が多い漫画になりそうだぞ……?」という心構えを一旦させられることとなる。この漫画は週刊連載のスピード感で出されるものだとは思わないけど、松尾芭蕉の生い立ちを1冊の漫画にまとめる構想を練る時間や取材なんかも必要なわけで、その上でこんなにメチャクチャに手間がかかる風景を頻繁に描かれたりなんかしたら、その、工数は大丈夫なんですか?いろんな意味でハラハラさせられてしまった。

元々、矢口先生は中学生の頃に俳句を嗜まれており、奥の細道にゆかりのある秋田県出身ということで、「マンガ日本の古典シリーズ」の企画が持ち込まれ際には一も二もなく「奥の細道」に飛びついたとのこと。松尾芭蕉や奥の細道に関する大量の参考文献を読み漁り、自ら取材も行い、先生曰くたっぷり4ヶ月かけて(矢口プロ総出でも4ヶ月で終わるような作業工数に思えないが?)、この漫画を描かれたそうだ。先生の画力もさることながら、松尾芭蕉への思い入れがびっしりあるんやろなと思わされる註釈のや解釈テキスト、しかし重要なところは、文字ではなく絵をもって松尾芭蕉が見た風景を可能な限り再現しようとする執念、「これは力作……」と思わされる作品でした。

この漫画一冊では尺が足りなかったようで、残念ながら山形の道中で締められているのだが(母の故郷の鶴岡の一歩手前であることが惜しまれる)、私がお気に入りの「五月雨を集めて早し最上川」に関するエピソードや、月山周りの情景も細やかに描かれていて大変満足だった。また、前に見た松尾芭蕉漫画の感想で「閑さや岩にしみ入る蝉の声、のセミの分類について、後世の歌人たちがバトったことがある」という覚え書きをしていたが、この状況の説明が普通に入ってたところも面白かったな。句の推敲についてや、「おくのほそ道」の創作(フィクション)としての面も言及されていて、きちんとした下調べが見えて好感が持てた、よい伝記漫画だったと思う。

あかね

静岡に住む、30代後半のものです。当時何に興味かあったのかを振り返るとき用に、読んだ本やYoutube動画、考えたことなどを書いていきます。