何も読まずに1日が終わりそうだったので、とりあえず何も考えずに手に取った本なのだが、あああ!寄りもの!寄りもののことが書いてある!海に打ち上げられる鯨!渚の恩恵!海の向こうから降臨する、まれびとという名の異郷の神!サマータイムレンダで見たやつ!昨日見たやつだァー!しまったこっちを先に読むべきだった!こっちを先に買っていたのに!そんなあ〜……岩波文庫だからって積んだりするから……ぴえん……。
読書:サマータイムレンダ / 田中靖規ヴー!(ゴリラの唸り声)自分の不甲斐なさに恥入りながら読了。白砂青松、よき描写。
読み終わった後に思ったことは、「この著者に絶対の力を持たせたら、おそらく海のために、文明を覚えた人間の悉くを滅ぼすだろうな……」の感想に尽きた。サブタイにもあるとおり、この本は「失われてゆく海辺の自然について」をテーマにしているのだが、人間の愚かさで海の生物が死滅していく話が1000回くらい出てくる。マジで1000回くらい出てくる。毎ページに、海を蔑ろにするすべてのものへの怒りが滲み出ている。多分、魔王ってこういう成り立ちから誕生するんだろうな……と、うっすら思ってしまった。最後の後書きで少しだけ人間の善性への期待を寄せるあたりもそう。
渚とは、海と陸が交わるところにあり、海と人間の接点でもある。島を美しく縁取る白砂のありか。陸の生命が這い出たところ。かつて沖縄には『ニライカナイ』という概念があった。海の向こうにあると信じられている理想郷の一種である。その楽土から流れ出たものとして、浜辺にはさまざまな海の恩恵が齎された。貝殻、流木、クジラ。海から寄せられる波に乗って恩恵は齎される。これが、先日のサマータイムレンダでもあった来訪神信仰の一種であるが、しかし、天の恵みと信じられる海の巨大な神聖さは姿を失いつつある。
悲しいことに、海は無限ではなかった。無限ではなくなった。
埋め立てによって壊滅する生態。他所の砂で人工的に作られる浜辺は、その砂に依存している環境を壊すし、海辺の濾過装置として働いていた生物は消えてなくなる。撒かれる除草剤は川を伝って海へ流れ、海藻を殺す。海藻は色々な生物の棲家であり繁殖地でもある。ダムで水が澱み、大量発生するプランクトンによる水質汚濁で、川の魚は死ぬ。などなど。このように、生物多様性を謳っているはずの人間によって、海の生物多様性は次々に死んでいく。『すべてがFになる』で犀川先生が言っていたように、人間は環境破壊生物であり、人間は自然を破壊する能力で選ばれた種族なんだなあ。