ウィリアム・サマセット・モームの作品集からのハイライトを抜き出した語録本。今でいう、Youtubeでいいところを集めた切り出し動画みたいな位置付けかとは思うが、さすが、大体の人間がうっすらタイトルだけは聞き覚えのある『月と六ペンス』という小説で有名になった作者の語録だけあって、大変良かった。
ウィリアム・サマセット・モームは昔の大作家、具体的にいうと1874年〜1965年(没91歳)の間に活躍した方とのことで、今の時代を生きる私(イキリ)と感覚が合うものか……?と、読む前は少し不安視していたものの、大半の価値観にはしっくりくることが多くて、さすが大作家だと思わされた。
この本は小説や自伝から抜き出された語録集なので、前後の文脈は分からないことが多いのだが、持ち前の人間観察眼を武器に、簡素に明確に、誰が見ても分かりやすい文体で、シニカルではあるが度を過ぎない表現でスラスラ書かれた文体・内容はとても理解しやすい。本当に売れてる作家の力量ってこんな感じやで、と突きつけられた感じがした。
そこそこに厚みのある本のだが、なんとか読み通せたのは、初っ端から『幸福とは、快楽の持続した状態であるとしか定義できないのだ(P4)』ときて、「わ、私と同じ価値観だ〜!!」とテンションが上がったことが要素として大きい。人生は幸福になるためにある、という考えは捨てて良い。幸せでない、などと幸福の尺度で全てを図ることはしなくて良い。大体の不幸には、なんらかの埋め合わせがある。幸も不幸も人間の人生の模様である、みたいなくだり、「Fateのマーリンはモーム読んだ?」みたいな浅い感想も芽生えるのだが、概ね共感はできる。
共感できないところは、やっぱ時代ならではの女への価値観と恋愛観に関する語録の一部かなあ。でも、「最も長続きする恋愛は報われぬ恋である」「恋愛がある限り、憎悪、悪意、嫉妬、怒りは必ず付き纏う」ところは、この価値観で書かれた小説読みてえな〜!と思わされたな。
「金銭とは第六感のようなもので、それがなければ他の五感もあまり働かない」という箇所は、暖房電気代をケチろうとして寒さに震えていた先日までの私を思い出すし、「私は苦悩が人を気高くなどさせないことをはっきり知った。苦悩は人をわがままにし、卑屈にし、ケチにし、疑い深くする。人を本来の性質より良くはしない。悪くさせるのだ」の件はブッダが苦行を否定したところにも似通って、素直に頷くことが出来た。
語録をパラパラと見るだけでも、確かに評判通りの、観察眼鋭い大作家だったんだなあというのが伝わってくる。著書『月と六ペンス』と引用の多かった『人間の絆』、読んでみるかなあ。