読みやすい脳系の方を書かれる方という印象。こちらの先生の本は、いくつか読んだことがあったので知っている情報がそこそこあり、その辺りは流し見しながら読んだ。気になったのは次の項目かな。
(1)脳はなにかと記憶する
「歳をとれば脳細胞は減る」という巷の通説は正しくない。一部の神経細胞は生涯にわたって増えうる。その中でも海馬は、記憶をコントロールする部位であり、物事を学習することが海馬神経の増殖能力を高めることが発見されている。学習以外でも、マンネリを避ける、新しい刺激を心がける、適度な運動、食べ物をよく噛むなど。びっくりしたのが、手術により海馬を失ったある患者は新しいことを覚えられなくなる、のくだり。手術の直前までの記憶は問題なく保持しているが、その後は数分間しか記憶を維持できず、担当医師に対して何度も「はじめまして」となってしまうらしい。面白いのは、古い記憶はそのまま持っていることで、海馬は出来事を脳に刻み込み、記憶を『作る』が、その記憶を保持するのは別の部位であるとのこと。へえー!
(4)脳はなにかとやる気になる
脳よりは体のほうが大事で、「体に引っ張られる感じで脳も活性化してくる(やる気が出る)」「体も衰えれば脳も衰える」という先生の意見。これは納得できるかも。体を動かさないと、外界から得られる刺激の複雑さがそれだけ減り、神経細胞が壊れる→再生が発生する回数が減る→体を動かしていた若い頃より衰える。外界の刺激がある→神経細胞が活性化する→脳の神経細胞が活性化する=作業興奮が発生している、という繋ぎ方でいいのかな。(自信はない)
(11)脳はなにかとウソをつく
人間に自由意志はないが、自由否定はできる、というくだり。他の本でも見る知見だけど、その度に京極夏彦の『魍魎の匣』を思い出すんだよな。ここからは普通にその本のネタバレなんだけど、友人を殺した犯人の動機は「たまたま犯行ができる状況下に置かれたから」とかだったと思う。つまり、その状況になったから彼女は犯行に及んでしまった。これを自由意志はなかった状態とも捉えられるが、しかし自由否定はできる。つまり、「今、線路につき落とせるかもしれないな」と思ったとして、自由意志がなかったからそのまま罪を犯してしまった。これは無罪になりうるのでは?という考えは出てくると思うが、その行動を否定してキャンセルする意思は持つことができる、という置き換えをしてしまう。
あと気になったのは、「人間のその時の行動に根拠なんてない。人を好きになった根拠も正しく明示できるものではない。いろんな状況下で脳が揺らいだとき、たまたまそっちの方に結論が収束した。後は言い訳のこじつけである」みたいなところ。これは納得がいくし、真実がどうとかより、後付け設定で納得できるなら問題ないと考える。
(15)脳はなにかと眠れない
睡眠で得られる「記憶補強効果」だが、眠らずにリラックスした状態(外部の情報を遮断するという行為)でも同じような効果が得られるらしい。これは最近どこかのネット記事でも見たな。何かをガーっと詰め込んだら、その後15分くらい外界の刺激を遮断してぼんやりしてると、定着率がいいよ!みたいなことだと思う。おそらく。
あと、記憶は夢を見ている時に「早送り再生」されてるかもって話面白かった。確かに、20分くらいの仮眠でみた夢の割にはやたら長編だったな…?となることあるもんな。
(21)脳はなにかと不安がる
マンネリ化は脳の神経細胞を活性化させない。不確実さが脳の栄養源である。この辺り、先日の茂木先生の本でも見たな。悩まない人たちは記憶力が低下する。未来に対しての不安がない人は計画を立てる必要も薄いから記憶力は不要になる。不安は結構脳には大事、みたいな話。
だいたい以上。
途中、うーん?と首を捻る箇所もあったが(直近で見た本等で得た知見と矛盾するので一旦判断を保留にした箇所があったという意味)、面白くて読みやすかった。後ろに索引と参考文献をちゃんと用意しているのも好感度が高い。