ビデオテープ巻き戻し世代

水色チェックマークのあるタイトル作品のネタバレを含みます

映画を早送りで観る人たち ファスト映画・ネタバレ――コンテンツ消費の現在形 / 稲田豊史

よく考えたら、このブログはおおむね本のネタバレをしているネタバレブログなのでは?

ともあれ、時代に沿った本が読みたくなったので手に取った。著者の方はライターで、DVDなどの映像に関する記事を書く際に早送り等をやっていた覚えがあり、内省しつつも、今の時代で流行っている「早送り・ファスト映画・ネタバレ」ってこういうことなんじゃないだろうか?というのを振り返った本……でいいのかな。

この本を読む前に、まず我が身を振り返ってみる。早送り……するなあ。映画やアニメを早送りでは視聴しなけれど、Youtubeでゆっくり解説系動画を見ているときは1.5倍の早送りをすることがある。あとは、iPhoneでKindle本やメモの読み上げ機能を使って音声を聞くときは、1.5〜2倍速で聞く。
映画やアニメを早送りしない理由は、早送りをしようという意識がそもそもないからだろうな。倍速できるよ!と言われても、その気にならないので行動することができず、あえて拒否する理由を考えるなら「場の雰囲気や行間込みで作っているものだから」とかだろうか……でもこれ後付けの理由だな。あとは、早送りしていると常に意識を集中しなくちゃいけないので疲れる、というのがあるかも。息抜きの箇所や、思考をまとめる間も欲しい。
逆に、ゆっくり解説系動画を見るときに早送りをするときは、大体すでに一度見た覚えがある動画で、概ね流れがわかっており、結論をなぞる行為を再度行うときは早く進めてしまう。iPhoneでKindle本を読み上げてもらうときは、活字を耳から脳に叩き込むだけなので、無理なく聞き取れる速度が2倍速(ちょっと厳しいと思ったら1.5倍)にする。メモを取りたいときは大人しく読み上げを止める。

私の現状はそんな感じかな。じゃあ本を読むか、いざ鎌倉!

▼早送りの理由1:供給過多、社会背景
かつてない安価で映像の供給が大量に行われているため、話題になる作品に対する消費速度を上げるべく、早送りという「時短」が行われる。映画やアニメを見る動機が、そもそも世間の話題についていきたい・履歴書に書ける個性を作りたいというコミュニケーションのツールとして使用するためである。大まかな流れの話が出来ればいいので、早送りで見る方がコストパフォーマンスがよく、細部についてはWikiやネタバレで補強する。ということらしい。確かに、映画を観ることや考えること自体が目的ではないから、時間の消費については時短にし、コスパを追求した結果そうなった、というのは納得できるな。これは構わないのでは?「食事はよく噛んでよく味わって食べるのが一番健康にいい」vs「食事は栄養が取れればそれで十分、テレビや新聞を読みながら食べたっていい、うちの晩御飯の団欒はそんなもん」みたいな、まあその人のその時の考えによるのでは、と思っていたら、本にもそのまま「鑑賞=食事を楽しむこと」「消費=栄養を計画的に摂ること」と書かれていて笑ってしまった。考えることが一緒。また、それに加えて、後半では「ここまで若者がコスパ・タイパを追求するのは、そもそも金も時間的余裕もないからでは?」という問いもあった。

他、コツコツやったことが必ずしも報われる社会ではない、という社会背景があるのでは?的な流れには首を傾げる。莫大な時間をかけて得た知識が無駄になる可能性もあるので、コストの消費を抑えて、リスクヘッジする手段が取れるようになったからそうしているということだろうか?まあそれもあるのかもしれないが、コツコツやったことが必ずしも報われる社会ではないのは太古の昔からだし、単に圧縮が手段として取れるようになったという技術の勝利が、コスパ良いものを求めたいという人間の本能を補助しただけのような気もする。つまり、最善は他にあるとしても、この作業もなるべくしてなった善の一つなのでは?みたいな。

映画をちゃんと観る人は、映画を観ること自体が己の目的に含まれており、映画に人生を変えられたことがある、自分の考えを変えてほしい、影響を受けたい、と思っている人なのかもしれない。逆に映画を消費する(と言われてしまう人)は、映画なんかに人生を変えられたいとは思っていない・映画は人を変える力があるとは思っていない(多少思ってはいるが、信じてはいない)、ということかもしれないな。これは偏見です。

▼早送りの理由2:なんでも台詞で説明してしまう
これは分かるかも。台詞で言語化してあると、理解がしやすいし(逆に言えば思考停止できる)、字幕が付けられて早送りにも耐えられるというオマケまでつく。そして逆に台詞がないシーンは飛ばしてもいい目安になる、らしい。これは、私が映画を飛ばさないからいまいちピンとこないのだが、確かに理由を考えればそうなるか。コミュニケーションは言葉だけで行われるものではないが、話題として言葉に出すなら、説明に用いやすいのは原作ですでに言語化されている言葉だろう。「あの時のセリフがすごくかっこよかった、その後のアクションシーンが良かった!」という論調で語るなら、確かに台詞がないシーン(月夜の雲を追う間の8秒とか)は情報量が乏しい、飛ばして問題ないものと認識されるのかも。

▼ネタバレを見る理由1:先に結末を知りたい。
早送りの次は、ネタバレの理由。先に結末を知りたい。これはメチャクチャわかる〜!ピッコマで気になった漫画のネタバレを見てしまってるので、何にも人のことが言えない。要するに、私は「続きまで待てない、耐えられない、分からないことを分からないままにしておけない、想定が間違ってるかもしれないという漠然とした不安から逃れたい」という気持ちがあるんだろうな。今は手っ取り早くネタバレを知る手段がある。なら使っちゃお〜!という流れなんだと思う。
しかし、ネタバレにキレてしまうこともある。意図しない不意打ちで浴びせられるネタバレと、海外アカウントから漏れてくるジャンプの早バレ(発売日より前にリークされたネタバレ画像およびテキスト)だ。これはなんだろうな。自分のコントロール下にないものと、個人的な倫理観が拒絶を感じるものは、イヤだということかな。

▼その他メモ
・エンタメコンテンツを「観たい(鑑賞)」のではなく「知りたい(情報収集)」のは、情報強者がマウント取れる世の中だからでは?
・エンタメをストレス解消に消費しているので、その快適性や確実性が優先される。
・映画館でその一回しか映画が観れない希少性・強制力と、繰り返しいつでも観られる映画としての位置付けの違いもあるだろう。
・今までは映画を受動的に見るしかできなかったが(映画館)、今は能動的に見ることができるし(自宅でDVD)、そもそも配給側からもその消費利用向けのサービスを提供されている(Netflix早送り機能)。
・全部セリフや地の文で説明されると「この合間はなに?」と考える余地がない。思考停止。作り手の意図を100%理解して解釈したいという欲。SNSで発信するためには間違って叩かれるワケにはいかないという誤解への恐怖。作り手側も「よく分からなかった」というコメントが製作者にダイレクトに伝わりやすい時代(もうファンレターは手紙じゃなくてSNSのDM)だからこそ、分かりやすい描写を差し込むというスパイラル。
・そもそも今まで「レコードなんて缶詰の音楽、生で聞いた音楽こそが本物」「小説なんて読むのはバカだけ、大説を読め」「紙で読むという読書体験が大事、電子書籍は紙に劣る」みたいなことを散々時代でやってきたんだから、最終的に「まだ倍速視聴がどうとかで揉めてんすか、令和っすよ!」って着地点もあるだろう、みたいな著者の結論にはメチャメチャ同意する。
・そもそも私もコンテンツ大量消費マンだから全く人のことを言えないし、Amazonで本を買うときも必ずレビューを見てから買う方だったことを思い出した。

メッチャ考えてしまう本だった。

あかね

静岡に住む、30代後半のものです。当時何に興味かあったのかを振り返るとき用に、読んだ本やYoutube動画、考えたことなどを書いていきます。