「2023年1月」の記事一覧

読書:名画のティータイム 拡大でみる60の紅茶文化事典 / Cha Tea 紅茶教室

水色チェックマークのあるタイトル作品のネタバレを含みます

世界史系のコンテンツを見ていくと、紅茶・コーヒー・チョコレート・お砂糖=奴隷!植民地!コンキスタドール!という身も蓋もない連想ゲームをするようになってしまうのだが、それはそれとしてお茶文化にはロマンがあるよねというミーハーな気持ちで手に取った本。超有名なイングランドの貴族ものの海外ドラマ『ダウントンアビー』でも、たびたび貴族のティータイムという文化を見せつけてくれることで盛り上がったような記憶があるので(うろ覚え知識)、やっぱこの手の雅な文化は世界中どこ行っても憧れの武器となるのだなあ、としみじみ実感した次第である。

名画のティータイム 拡大でみる60の紅茶文化事典 / Cha Tea 紅茶教室

女主人は客を招き、すすめた通りに着席した客へ、笑顔でお茶のおもてなしをする。ティーフードに顔を綻ばせる少女、上目遣いで周囲の状況を伺う貴婦人、エチケットマナーを武器に社交する女性たち、目を光らせる使用人たち。茶会を通して財政状況、人となり、そして今後の見通しを見定めるこのコミュニケーション文化は、見目の良い装飾に彩られ、光景はさながら一枚の絵画のよう……みたいな、こういったご婦人たちのお茶の描写、なんだか知らんがめちゃくちゃ見覚えがあるぞと思っていたら、急に気づいた。これは、なろうの悪役令嬢系小説に出てくるヤツそのままの描写だ〜〜〜!道理で既視感しか感じなかったワケだ。悪役令嬢系、必ずといっていいほどお嬢様方のティータイムが出てくるもんな。進研ゼミで何度も見たやつだったか〜。とまあ、思わず本の意図しない方向に意識が向かいつつあったが、気を取り直して要約すると、そんなご婦人たちの様子を描いた名画の数々を紹介してくれるのがこの本である。

西洋のお茶文化の見目麗しさを楽しみ、まあ見覚えある絵画の一つや二つ出てくるだろうなと楽観しながら読んでいたところ、マジで見覚えがのある絵画が一つも出てこないまま終わってしまい、自分の美術における教養のなさにはビックリしてしまった。

ともあれ、そんな絵画たちの紹介を見つつ、それを描いた当時の文化(アフタヌーンティー、温室、東洋からの茶文化や茶器の輸入、女主人や客人のもてなしについて、茶会の社交や目的、家政のあり方、銀食器が象徴するもの、シノワズリー、砂糖、サロンなど)の詳しい説明を見ていくのだが、その度に脳裏に「これも、なろうの悪役令嬢系で見たことあるやつ…!」と不埒なコメントがよぎってしまい、なんだかもう本当に著者には申し訳ない気持ちでいっぱいになった。まあ、純粋にティータイムの文化を象徴する絵画やその背景を眺めるだけでも十分ニコニコできるので、西洋のティータイムにキラキラした憧れを感じる心を最大限に保ちながら(植民地や奴隷のことは極力思い出さない)、この本を読むのがよろしかろう。

読書:はじめての動物地理学 なぜ北海道にヒグマで、本州はツキノワグマなの? / 増田隆一

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私がこの世で恐ろしいと思っている存在の一つに「人肉の味を覚えたクマ」があるわけなのだが(吉村昭の『羆嵐』を読んだばっかりに)、そのせいもあってか、この本のサブタイ「なぜ北海道にヒグマで、本州はツキノワグマなの?」に意識が引っかかってしまった。確かに北海道のクマ=ヒグマという認識ではあるものの(羆嵐、ゴールデンカムイの影響により)、ツキノワグマって日本のどこからがツキノワグマなんだ…?という疑問を持つにいたり、手に取ってみることにした本。

はじめての動物地理学 なぜ北海道にヒグマで、本州はツキノワグマなの? / 増田隆一

そもそも『動物地理学』ってなんだろう、虎は日本にはいないのは何故かみたいなヤツ?と大雑把な認識で読み始めたのだが、前書きの説明曰く「動物が、大昔から、地球上をどのように移動してきたか(パンゲア大陸移動説を含む、大陸の分割・結合による影響があり、その土地に適応しようとした種の進化がある)」「世界のどこにどのような動物が分布しているか」ということを考える学問らしいことが分かった。

サブタイにあったように、日本にあったクマの種類の分布を見ると、大雑把に「ヒグマ=日本では北海道にのみ生息し、以南の日本には居ない」「ツキノワグマ=北海道以外の本州・四国・九州に生息し、北海道には居ない」となる。この二種のクマは、津軽海峡でスッパリと分布が分かれて、これが何故なのか?という疑問に対し、動物地理学は以下のように推測を立てる。

・地球が氷期の時代に入ると、海峡が浅いところは、氷や諸々の条件で陸化して大陸同士が繋がる。世界的に見て、ヒグマは亜寒帯に生息し、ツキノワグマは暖かい地方に住むので、大陸がつながっていた時に、ヒグマは北の大陸側から、ツキノワグマは朝鮮半島を経由して、などと各々上下から入ってきて、温暖化と共に陸化していた箇所が海に戻ると分断されたのではないか?

・北海道と本州北端(青森県)を繋ぐ津軽海峡は、有名な動物地理境界線(ブラキストン線)がある。動物地理境界線(ブラキストン線)とは、その線を境目に、動物の種類が大きく異なるラインである。津軽海峡は、海底200mを超えるため、氷期でも陸化できなかったっぽい。よってヒグマは、氷期であってもこの線より南下して本州には辿り着けず、またツキノワグマもこの線より北上して北海道には辿り着けなかった。(正確にいうと、大昔のヒグマの化石が本州で見つかったこともあるが、縄文時代以降は発見できないため、本州に渡ったヒグマは絶滅した)

・よって、北海道=ヒグマ、それ以外の本州はツキノワグマが分布し、今に至ることとなった。

というような感じで説明できるっぽい。(ふんわりとした理解)

大陸の移動や、氷河期・温暖化の諸々の条件によって動物の分布や移動、進化や固有種ができるなどなど、確かにこれは「動物地理学」だ…!と納得ができて面白かった。

その他クマ以外の動物地理学の話題も多々出てきており、進化と変態の違い、寒い地方に住む動物の体躯が大きくなる理由、クジラは陸から海に戻った種でカバに近い説がある(ペンギンで見覚えのある流れ)、外来種の定義、パンデミックに至るまでなどなど、総じてどの話題も興味深く読める良い本だった。動物、植物、地理の地球史欲張りセットと言える。

漫画:虚構推理 1〜5巻 / 城平京、片瀬茶柴

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なんとなく店の本棚を見ていたら、この漫画の近辺に「スタッフのオススメ!」というラベルがデカデカ目立っていたので手に取った。小説が原作なのかな?よくわからんが、タイトルだけ知ってはいた漫画に手を出すかという気分になり、ひとまず今日時間が取れるところまで(5巻まで)読んでみることに。

虚構推理 1〜5巻 / 城平京、片瀬茶柴

主人公は、幼少期に遭遇した怪異たちからの条件を飲み「知恵の神」となって怪異たちの困りごとを解決することになった少女・岩永琴子と、琴子が慕う不死身の大学院生・桜川九郎。普通にこの二人がパートナー関係になって進む推理ものだと思って読み始めたら、初っ端からオカルトありのミステリーバトルっぽい感じで、『medium 霊媒探偵城塚翡翠』みたいな、オカルト要素を現実的な推論で塗り替えながら事件に挑むタイプの物語っぽい雰囲気だった。推理ミステリーにオカルトを直球に打ち込むのは、(ひぐらしがなく頃にとかもあったとは思うが)当時としては物珍しかったのでは。

とりあえずキリのいいところまで読むかなと軽い気持ちで読み始めたんだけども、登場人物の情報が出揃った後に始まった事件が数巻を跨いでも全然解決しねえ〜!原作が相当長編の小説だったってコト!?金田一やコナンのような推理マンガと捉えていたから、長くても1〜2巻以内で終わるような事件解決を想定してたこともあってビックリよ。5巻に入って、ようやくクライマックスの兆しが…!というところで、今日は時間が切れてしまった。キリのいいところまで読めなかったけれど、また続きを読みたいと思うくらいには十分面白かったな。最初は男主人公の桜川九郎がいいキャラだな〜!と思っていたが、女主人公の岩永琴子ちゃんがあまりにもコイツに雑に扱われることが不憫でならず、5巻を読み終わることには「こ、琴子ちゃ、がんばえ〜!」となって応援していた。おい!桜川!多分なんらかの事情あってのことかとは思うが、花よりも蝶よりも丁寧に扱ってくれよな!😠

漫画:うみねこのなく頃に散 Episode5 1〜6巻 / 竜騎士07、秋タカ

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そういえば、ひぐらしはWindows持っていた時代にゲームをプレイした覚えがあるけれど、うみねこは途中で離脱してしまったなあ……。結局どういう物語なんだっけ?とネットでネタバレを踏みまくり、全制覇までにかかるゲーム時間数見積に慄き、とりあえず途中からは漫画で履修するのが良さそうという口コミをあてにして、ちまちまと漫画版を読み始めた。

うみねこのなく頃に散 Episode5 1〜6巻 / 竜騎士07、秋タカ

そんな軽い気持ちでこのシリーズに手をつけたところ、ファイナルエピソードまで漫画が50巻以上出ているらしいことを知って我が目を疑った。50巻以上?正気か?私は何て恐ろしいものに手をつけてしまったんだ……。

とりあえず、うみねこ全体をネタバレなしに読むことはハナから諦めていたためネタバレを読み(もう100時間を超えるゲームをする気力がない)、「なるほどね、バトラくんとベアトリーチェちゃんはデキてるかデキてないか微妙なところなのね、リカちゃまっぽい魔女のコマとしてリカちゃまっぽい探偵がいるのね、そして黒幕はこのキャラクターなのね」くらいの大雑把な知識を植え付けて漫画を読み始めた。
いきなりEpsode5の1巻から手をつけたのだが、これはちょうどこの漫画が梨花ちゃまソックリなキャラクターのいる表紙だったことと、うみねこは途中からいきなり作風全体がガラッと変わる(悪魔とか魔法とかが出てくる)らしいので、全エピソード中の真ん中くらいを見て感じた作品全体の作風が合わんかったらここで切ってもいいや……くらいの期待の薄さで冒険することにしたのだが、このシリーズはなかなか面白く感じたな。謎も犯人も何一つ分からないんだけど、この展開とノリと勢いで強引に進める感じ、確かにひぐらしと通ずるところがあって、懐かしく感じたのもポイントが高い。うみねこの大まかな概要は掴めたし、面白そうだから、今度はエピソード1から読んでみようかな……でも50巻以上か…………(大いなる躊躇)

読書:君のいた時間 大人の流儀Special / 伊集院静

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年末年始の急激な体調悪化と帰省を言い訳に、随分と読書をサボることが定着してしまったが、なんとか伊集院静先生の本を一冊読めたぞ。

君のいた時間 大人の流儀Special / 伊集院静

私が知っている著者の情報については、(全くの個人的偏見なのだが)LEONとかで掲載していそうな大人の男についてのエッセイを書いていそう、島耕作の著者と対談とかしたことありそう、という色眼鏡で曖昧なイメージだったのだが、この著書『君のいた時間 大人の流儀Special』は、亡くされた愛犬・ノボくんについてのエッセイをまとめられたもので、なんだかちょっと意外性を感じ、読み進めることができた。

内容としては概要以上に語るべきことはないのだが(本当にノボくんが家にやってきて育ち、老い、亡くなるまでのエッセイ)、犬という種族の家族を作るということは、家庭環境に大きな影響を与えるんだなあという、当たり前と言っては当たり前ことなのだが、その想像を補強する説得力のある文章でしみじみとさせられた。あとは、人間ではないが家族であるという範疇の対象についてのエッセイなので、家庭内の、限りなくプライベートであることを思わせる描写も多々あり、伊集院静先生に対する印象が少し変わったかもしれない。
とはいえ、近所の犬の飼い主を「人妻」「新妻」と呼んだり、「今まで付き合った女たちの大半に犬の爪の垢を煎じて飲ませたい」「私が下半身のことでこれだけ厄介ごとを抱えたり悩んだりしたんだ」などと、私の中にある『昭和のオッサン偏見像』もそこそこに補強してくれたので満足したりした。愛犬が亡くなられることが前提なので湿っぽい話になりそうだものだが、そこは今まで500冊の本を出してきた先生、気持ち軽く読ませてくれるので、犬好きなら共感できるエッセイなのかも。