「2022年」の記事一覧

まずは愛しきものを殺せ

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名著から学ぶ創作入門 / ロイ・ピーター・クラーク

この本の正式名称が『名著から学ぶ創作入門 優れた文章を書きたいなら、まずは「愛しきものを殺せ! 」』なのだが、めちゃくちゃ聞き覚えがあるサブタイだと感じて手にとっていた。文章術の指南書?的な本の名文句だったように思う。そしてその文章術の名著を50冊以上読んだ著者が、重要と思われるポイントをピックアップして紹介した本が本作になるのかな。どこかで見たなこの形式?(もしかして:ビジネス書ベストセラーを100冊読んで分かった成功の黄金律

著者は、新聞記者で博士号持ち・専門機関で40年以上創作講師を務め、自身も作家として活動している等、まごうことなき本職のプロなのだが、そのせいあってかそこそこ分厚い本になっている。中身は読みやすくて親しみのあるテキストで、名著の優れた教えを引用しながら文章を書く際に気をつけたいポイントを説明している。

愛しきものを殺せ……文章を装飾する目的でお気に入りのフレーズを使うこともあるだろう。しかしそのフレーズは、本旨に沿うものか?そうでなければ、たとえ愛しいものでも、出版社に提出する前には取り除くべき。みたいな教え。確かにあるな〜!ふと思いついたあの一言が言いたい!ってなることめっちゃある。でも、それは本旨のテーマに沿った適切なフレーズか?言いたいから言っているだけでは?みたいな厳しい目で見ることも必要だと。初歩的なことだけど、確かにそうだよな。ノリで使う言葉もそうだけど、大事にしたいフレーズならなおさら、適切ではないところで使っては勿体無いもんな。愛しいフレーズはとりあえず他所に書き留めておいて、然るべきテーマで、最大限、効果的なタイミングで使うのがいいと言われれば、それはそう。

雑然とした箇所を見つけて削除しよう……著者のクラークが「ただならぬ2ページ」といった箇所に書かれた教えを要約すると、「(われわれの文章は)大袈裟な表現や無意味な専門用語に塗れ、窒息しかかってる社会そのもの」「冗長な言葉は雑草と同じ、放っておいたら日常になるから、見つけ次第削除しろ」みたいな感じ。現代は情報過多でどうこう言われているけど、文章の中も同じだよと。本質を明瞭に、簡素に刈り取れ。それがうまく文章を書くということだ。なるほどなあ。

計画に沿って書こう……大きな執筆プロジェクトになればなるほど、計画を必要とする。あと執筆に必要な資料は、必要だと思ったよりはるかに必要。収集の後には、よい選択をする。よい選択をするには、軸となる考え、つまり焦点が必要である。

文の長さを変えて、心地よいリズムを作ろう……短い文、中くらいの文、長い文を組み合わせ書こう。そのリズムは、音楽を奏でているようなものだ。ただ読ませるのではなく、耳も楽しませるリズムを考えよう。一つ一つのピリオドを、一時停止の標識と考える。

他、とりあえず試し書きをして、すでにわかっていることは?わかっていないことは?と自問する。楽しませ、教えるために書こう、など。


エーン、この本手にとっておいてなんだけど胸に突き刺さる。

渦中に飛び込むし、火中にも飛び込む

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「違うこと」をしないこと / 吉本ばなな

昨日の続きから。よく考えてみたら、2021年に、まだこういうバシャール対談本みたいなスピリチュアル本を出せるのはすごいことなんじゃないだろうか?吉本ばなな先生のネームバリューかな。宇宙、愛のエネルギー、チャネリングなどなど、久しぶりにこの手の本を読んでいるかもしれない。宇宙云々とかはさておき、愛とかしがらみとか生きづらさとかの話題が多いので、「やっぱこの世代はみんな人間関係から生じる摩耗で、多かれ少なかれ疲弊しとんのやな」と言う印象が強い。人間関係を密にすれば、ポジディブな意味でもネガティブな意味でも感情が揺れる原因になるだろう。揺れること自体には良いも悪いもないが、人間の流れやすさを侮ってもらっちゃ困るぜ。そう言う意味では、「違うことをしないこと」と言うのは、無理をしない、他人に合わせすぎて自分の思考を無視しない、溜め込まない、違和感を黙殺しない、みたいなメッセージ本なのかな。

ここからはメチャクチャ個人的な偏見なんだけど、歳を取ってくると、若い時に無理に我慢することなかったなって気づいて、開き直って図々しくなれたりできることあると思う。その分生きやすくなったな〜とは思うんだけど、その分どっかで若い人に我慢させてるみたいな皺寄せを感じていることがあり、「母ちゃん嫌ってたおばあちゃんの性格に似てきたな」「血筋って抗えないのかもしれないな」と言うような状況も見ているので、世の中は連鎖なんだなあ、と感じることはあるし、私も歳をとってきて我慢しない方に寄ってきているのを感じている。本の中でも、自分は自分!と言う人間ばかりだと共存が難しく空中分解する、みたいなことは書かれていたので、それはそうだなと自戒せねばなるまい。

吉本ばなな先生やべえなって思うポイントは、若い頃からメチャクチャ売れてたのでメチャクチャな人間関係をガンガンに経験しているのに「ずっと書いて生きていきたいから、そう言う経験もこの先いる」って判断して、自ら飛び込むところだな。これが私には出来ないので、読んでいて「そりゃ作家として大成する」と納得しかなかった。何かに飛び込まないでスルーするより、失敗だらけだとしてもちゃんと経験として受け入れて、「(小説家としての自分のスタンスと)違うことをしない」と言う先生の生き様がすべてを語るスタイルの本だった。
対談はスピリチュアルがメチャ強。それが終わると「前世はある、幽霊はいる、神はいる、ってことにしておいた方がいろんなことの説明が楽」みたいな見解も出るので、やっぱ作家の視点があるんやろな。個人的には森博嗣先生の話が挟まれたのが嬉しみポイントだった。そういえば、吉本先生は森先生と付き合いあるんだった。森先生のエッセイ本とかにもちょくちょく名前お見かけするもんな。

未来のきみを変える読書術 / 苫野一徳

学生向けのコーナーにあった読書本。たぶんわかりやすいだろう!と思って手に取った。なぜ読書が良いのか?というテーマに沿って、哲学者・教育学者の著者が解答をしている。

第1章・読書の効用。「読書で得た知識(教養)で出来た蜘蛛の巣には、時折ひらめきの電流が走る」、これは分かる。私もこれを楽しみにして本を読んでいるときがある。ただまあ、その時はメチャクチャすごいこと閃いた感はあるんだけど、著者の言う『そのひらめきから最適解が見出される』とまでは感じたことないかも。私に取ってはセンスが爆発した脳汁溢れる瞬間なのだが、最適解を見出せるかというと…そ、そうか…?と自信がない。でも、読書のメリットとしては賛同できる。
大事なことは、無闇に知識を得るのではなく、知のネットワークを築くこと。これもそう。適当な時間潰しで見た雑学動画とかって、結局私自身に興味や意識がないと、そこで得た知識がどんなに優れた知識でも、私の脳が内容のうっすいゴミデータに改竄しちゃうしな……。また、読書から直接体験を得られる・視野が広がると言うのも同意できる。

第2章・読書の方法。あんまり記憶に残らなかった。読むタイミングがたまたま合わなかったんだろうな。

第3章・レジュメ(読書ノート)の作り方について。途中でオンラインサロンの会員云々の話が出た時、「あ!でた!ビジネス書でよくみる有料オンラインサロンへ誘導するやつ!」と一瞬にして警戒してしまった。悪いビジネス書の読みすぎなのよ。大学の先生が、有料オンラインサロンへの誘導を筑摩書房でやるわけがないのよ。……エッ、ですよね?それが気になってしまって、内容が頭から吹き飛んだことを反省したい。

読書の利点を学生向けに分かりやすくまとめられた本で、良かったと思います。

ちいかわ、人肉の味を覚えた熊の話しとる?

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ナガノワールド、今のところ異世界転生したくない世界No1だが大丈夫か?でも、ハーメルンとかに、ちいかわ転生二次創作とか来たら絶対見ちゃうな。誰か書いてほしい。

われわれは仮想世界を生きている / リズワン・バーク

茂木先生の『脳と仮想』を読んだ後だったので、そういう脳の話かな?と思い、Kindleで爆安になっているところを購入したが、これシミュレーション仮説の本だな!?但し書きをよく読んでから買え。まあそういう話も嫌いではないよ、最近SF小説も読んで面白いと思っていたからな、と読み進めてはいるが、前置きが長くて若干不安になってきている。マトリックスの話が出てきたところで、本日は中断。進捗5%です!

「違うこと」をしないこと / 吉本ばなな

「違うこと」をしないというのは示唆に富んだタイトルだよなあ、読んでみるか、と手にとって読み進めていたが、急に『宇宙マッサージというのは、シンプルにいうと愛のエネルギーを使って、地球人が生きていく中でしがらみやコンプライアンスなどによって制限されたエネルギーのゲートを解除して、宇宙と繋げてアップデートしていく』『宇宙と一体になるチューニングをすることでその人にとって本来の生き方ができていくようにするマッサージ』みたいなパワーワードがバンバン出てくるので、エヘヘと行き場のない笑みが漏れてしまった。今日はそういう本に当たる日なのか?とりあえず、折を見て最後まで読んでみよう。今日は22Pまで。

現実もなにかと言い訳するのでは

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脳はなにかと言い訳する / 池谷 裕二

読みやすい脳系の方を書かれる方という印象。こちらの先生の本は、いくつか読んだことがあったので知っている情報がそこそこあり、その辺りは流し見しながら読んだ。気になったのは次の項目かな。

(1)脳はなにかと記憶する
「歳をとれば脳細胞は減る」という巷の通説は正しくない。一部の神経細胞は生涯にわたって増えうる。その中でも海馬は、記憶をコントロールする部位であり、物事を学習することが海馬神経の増殖能力を高めることが発見されている。学習以外でも、マンネリを避ける、新しい刺激を心がける、適度な運動、食べ物をよく噛むなど。びっくりしたのが、手術により海馬を失ったある患者は新しいことを覚えられなくなる、のくだり。手術の直前までの記憶は問題なく保持しているが、その後は数分間しか記憶を維持できず、担当医師に対して何度も「はじめまして」となってしまうらしい。面白いのは、古い記憶はそのまま持っていることで、海馬は出来事を脳に刻み込み、記憶を『作る』が、その記憶を保持するのは別の部位であるとのこと。へえー!

(4)脳はなにかとやる気になる
脳よりは体のほうが大事で、「体に引っ張られる感じで脳も活性化してくる(やる気が出る)」「体も衰えれば脳も衰える」という先生の意見。これは納得できるかも。体を動かさないと、外界から得られる刺激の複雑さがそれだけ減り、神経細胞が壊れる→再生が発生する回数が減る→体を動かしていた若い頃より衰える。外界の刺激がある→神経細胞が活性化する→脳の神経細胞が活性化する=作業興奮が発生している、という繋ぎ方でいいのかな。(自信はない)

(11)脳はなにかとウソをつく
人間に自由意志はないが、自由否定はできる、というくだり。他の本でも見る知見だけど、その度に京極夏彦の『魍魎の匣』を思い出すんだよな。ここからは普通にその本のネタバレなんだけど、友人を殺した犯人の動機は「たまたま犯行ができる状況下に置かれたから」とかだったと思う。つまり、その状況になったから彼女は犯行に及んでしまった。これを自由意志はなかった状態とも捉えられるが、しかし自由否定はできる。つまり、「今、線路につき落とせるかもしれないな」と思ったとして、自由意志がなかったからそのまま罪を犯してしまった。これは無罪になりうるのでは?という考えは出てくると思うが、その行動を否定してキャンセルする意思は持つことができる、という置き換えをしてしまう。
あと気になったのは、「人間のその時の行動に根拠なんてない。人を好きになった根拠も正しく明示できるものではない。いろんな状況下で脳が揺らいだとき、たまたまそっちの方に結論が収束した。後は言い訳のこじつけである」みたいなところ。これは納得がいくし、真実がどうとかより、後付け設定で納得できるなら問題ないと考える。

(15)脳はなにかと眠れない
睡眠で得られる「記憶補強効果」だが、眠らずにリラックスした状態(外部の情報を遮断するという行為)でも同じような効果が得られるらしい。これは最近どこかのネット記事でも見たな。何かをガーっと詰め込んだら、その後15分くらい外界の刺激を遮断してぼんやりしてると、定着率がいいよ!みたいなことだと思う。おそらく。
あと、記憶は夢を見ている時に「早送り再生」されてるかもって話面白かった。確かに、20分くらいの仮眠でみた夢の割にはやたら長編だったな…?となることあるもんな。

(21)脳はなにかと不安がる
マンネリ化は脳の神経細胞を活性化させない。不確実さが脳の栄養源である。この辺り、先日の茂木先生の本でも見たな。悩まない人たちは記憶力が低下する。未来に対しての不安がない人は計画を立てる必要も薄いから記憶力は不要になる。不安は結構脳には大事、みたいな話。

だいたい以上。

途中、うーん?と首を捻る箇所もあったが(直近で見た本等で得た知見と矛盾するので一旦判断を保留にした箇所があったという意味)、面白くて読みやすかった。後ろに索引と参考文献をちゃんと用意しているのも好感度が高い。

日本より頭の中のほうが広いでしょう

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脳と仮想 / 茂木 健一郎

先日読んだ『「脳」整理法』の著者の方かな。読了。

「サンタクロースっていると思う?」という女の子の話を偶然耳にした著者は、これを重要な問いだと感じた。クリスマスの夜に子供にプレゼントを配るサンタクロースというのは、頭の中にしかいない架空の存在で、現実には存在しない。実在性を証明しようとしてそれらしい格好の髭のおじいさんを連れてきたとしても、それはサンタクロースではなくそういう格好をした人間だというだけだ。しかし、きっと子供も、どこかでぼんやりと「サンタクロースは現実には存在しない」ということに気付きつつありながらも、その頭の中の存在ーー仮想を切実に求める。現実と仮想は、お互いどのような意味を持つのだろうか。というのが序章だった。

著書の中にあった説明だが、日本人が蛍や桜という言葉を聞けば、文化によって連想されるイメージ(仮想)の質を決定している。この仮想は、決して現実のものではないのに、なぜ脳は意識に留め置くのか?というのは私も気になった。言われてみれば、真・善・美、いずれも現実には存在しない。個人による主観的な真実や美、善きことはあるかもしれないが、絶対の法則なんてものは世にはない。それがあるのは、個々の頭の中にだけだ。文化的背景を持つ各々の人間が各々の解釈で作られた仮想世界を持つ。数、愛、平和、天国、自由などもう。

また、仮想というのは、予想のような一面も持つ。例えば、「明日は友達とずっと追っているシリーズの映画を見に行くけど、多分見終わった後、4時間くらいはファミレスで喋り続けるんだろうな」みたいな期待を空想しながら眠りについた人間がいるする。これもまた仮想の一つだ。しかし、翌日は急に大雨が来て予定自体がキャンセルになった時、昨日の晩に抱いた仮想は、現実の前に砕け散って消え失せる。この場合は、現実が邪魔になっている。現実に即していればいるほど、仮想は維持しにくい。逆に言えば、現実に対応していない仮想は強度が高い。神とかもそうかもしれない。妄想と割り切った妄想だったりもそうかな。二次元の推しのことでフワフワ妄想していたとしても、現実に砕かれることは、まあ……ない、か?作中で死ぬ可能性もあるのでなんとも言えないが、まあ死んだとしても「二次元のことやからな、私は好きな展開の夢を見るんや」と気持ちが極まっているなら関係ないかも。なんの話?

第4章。仮想と現実の違い。目の前にコップを掴むことで、視覚と触覚の入力情報が一致する。飲めば喉が潤う感じがする。この複数の経路から得られる確固とした作用、現実感が現実を支えており、逆に言えば、仮想はそのような感覚の一致が成立しないもの。現実は確固とした基盤があるが、仮想にはそれがない。しかし、仮想には基盤がないからこそ自由がある。仮想には重い楔はない。なるほど。

第5章。養老孟司先生の話だァー!ゲームのみならず、ファンタジーものとか転生物とかのラノベも読まれるって話聞いたことあります。どこ情報だよ。多分養老先生の著書のどっかで見かけた話だとは思うが……(漫画とか想像力とかの話から来てたような、『マンガをもっと読みなさい』という対談本かな)。ゲームも仮想。それはそう。でも、ゲームの持つ世界観?なんだろう、仮想としての存在の強度は高く思えるから安心できるし、新しい刺激に没入しやすいのかもしれないなあ。
最後の方にある、仮想の星空は、現実の星空よりも私の魂に近いかもしれない何かを感じる、という一文が良かった。

第6章。他者という仮想。他人と同じ気持ちになんてなれるはずもない。各々のクオリアは違う。しかし、それにもかかわらず、他人の気持ちが分かったように思えることはある。これは一体なんなのか?友人の心が分かったと思った瞬間、「分かったことにした」瞬間、そのわかったこと以外を不可知の領域に追いやってしまうことはないか。しかし、それでも友人の気持ちがわかった、自分のこともわかってもらえた、分かり合えたという幻想を互いに共有することはできる。全てが脳内現象にもかかわらず、身体の外にあるものを感じることができると感じている。他者の心は絶対不可視だが、それでも繋がりたいと思ったとき、繋がりあえるという仮想を生み出す。現実ではなくとも、そのようなクオリアを互いに感じていると思れば良い、みたいな感じだろうか?

第7章、第8章ときて第9章、総括。現実は確実な存在であるが、その中に生きる私たちは確実なものではない。認識するものは意識に左右されるし、寝ている時は意識の認識もない。仮に人に魂があるとするならば、この現実と同じくらい仮想を必要としている、ということでいいのかな。ちょっと後半はあまり頭で咀嚼ができなかったが(読んだタイミングが悪かったかも)、良い本でした。