「2022年」の記事一覧

音声学が生きる競技ってなんだよって思ったら、かるたか!

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音声学者、娘とことばの不思議に飛び込む / 川原繁人

私は独り身で在宅仕事をしており、発声の機会があまりなくて、たまに発声練習(「あおいうえおあお」みたいなやつ)をすることで「声が出せなくなるかも」という不安から逃げているのだが、この発声練習の際に「さ行」の空気が抜ける感じ、「は行」のなんか特別酸素消費が激しい感じ、「やよいゆえよやよ」のえの言いにくさ等、これは一体どういうことなんだろうと音声学にフンワリ興味を持っていたので、タイトルに惹かれて手に取った。

この本は、言語学者のご夫婦が、二人の子供を育てる上で体験した娘さんたちの言語習得(言語発達?)に置ける面白い気づきと考察についての本。軽い気持ちで読み進めて、途中「ヤバい、なんか理解できなくなってきた(無声歯茎硬口蓋摩擦音という漢字を本能的に拒否する脳)」という気にはなったものの、本のサブタイトルにある「プリチュワからピカチュウ、おっけーぐるぐるまで」の通り、お子さんの成長と興味関心から気づきが生じるところは理解が可能なので、とっつきやすい雰囲気と面白さで楽しく読み終えることができた。

子供が言葉を覚え始めるとき一般化で言葉を解釈する、という我が子の天才ぶりを発揮することに気付ける子育て周りの体験もさることながら(言われてみれば確かに〜!と共感できる)、音声学ってなんの学問なのかイマイチはっきりと分かっていなかったのだが、「ポケモンの進化における命名規則」「メイド喫茶のキャラ別による名付けの傾向(魅力度との相関)」「声優さんやラッパーさんの仕事に活かせる」「ちはやふるを面白く読める(競技かるたで読み上げる百人一首で「し」始まりの札は2枚あるのだが、最初の「し」の発声の聞き取りようでどちらであるかを予測して早く取れるのでは?みたいな仮説)」などなど面白い応用が効く世界なんだなあと感じた。

漫画:マーガレット2044 / ミヨカワ将

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マーガレット2044 / ミヨカワ将

ジャンプ+の短編読み切り。
最近はSF小説を読むことが多かったので、少女とアンドロイドの話(+ロボット三原則)があると聞いて読んでみた。面白い。ロボット三原則は、えーっと「第1条:人間に危害を与えてはならない」……え!?あと二つ覚えとらん……そんなことある?1ヶ月前くらいにアシモフの『われはロボット』を読んだばかりだが?自分の健忘ぶりに驚くわ。ググってカンニングすると、「第2条:人間の命令に服従しなければならない」「第3条:前提第1条と第2条に反する恐れがない限り、自己を守らなければならない」か。
この手の話では、大体フレームワーク的なもので、ロボットが第1条と第2条に反する行為が取れなくなってジレンマを起こした挙句暴走するか壊れるかしてしまい、それに人間が対応するみたいな流れがスタンダードのようなうろ覚えの仕方をしているが、この話では、ロボットにも心があり(つまりプログラム通りに動かなくても矛盾を起こしてショートしたりしない)、人間側がそれを隠蔽することで、ロボット側の柔軟性をあえて損なわせていたというのは面白いかも。世界中のロボットが己が心を持っていると自覚したならば、結構やばい叛逆が起きるのでは?と思うものの、そういう路線でも構わないので、続きが気になる漫画だった。

なぜ自分の内にないものが欲しくなるのか?

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言葉を生きる / 池田晶子

ちくまQブックスの本。確かこのちくまQブックスは10代をターゲット層にしたシリーズで、この本も児童向けのコーナーにあったのだが、興味があるタイトルと「著者の方の名前、うっすら聞き覚えがあるな…」と漠然とした期待があったので手に取った。あとP120と薄い感じの本で読みやすそうだなって思って。いや、それでびっくりしたんだけど、いい意味で全然ページが進まなかった。こんなことある?1ページ1ページの著者の問いに、ウーン?と首を傾げて考え込む工程を挟んでいたら、全然読み進まなかった。

例えばP8にあった「いかなる風景も、それを見て感じているのは心以外のものではないのだから、すべての風景は必ず心象風景なのです」という一文で、これはあれだ……四季シリーズ(森博嗣先生)で、窓のない研究所を作るとき、理由を問われた際の会話の流れで「人は頭脳で外部を認識している。その人間の外部は脳の中にこそ存在するのでは?窓などなくても、脳に外という概念を伝える通信ケーブルが窓になればよい(意訳)」みたいなことを言っていたなあ……と思い出し、つまり自分の脳がそう区別している以上、内も外も頭の中の概念で、確かに心象風景だ……何が内で何が外かは自分で決められる、とはそういうことか、いや待て、もっと面白い何かと繋がりそうだぞ……としばらく考え込んでしまった。まだ8ページ目なんだが?
こういうのが続くので、今日は一章(30P)読むので一杯一杯だった。おもしろ。また少しずつ読み進めよう。

小5になったなら、ここまではいいでしょっていう線引き

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漢字なりたちブック 5年生 / 伊東信夫、金子都美絵

ついに私も5年生!そして案の定ページ数が増えているので、その分読み応えがある、と言いたいところだが、読むのに3日もかかってしまった。以下、気になった漢字の成り立ちのメモ。

P16「圧」。元は骨つきの犬の肉を供えてお祓いし、悪いものが出てこないようにと土地を鎮めるさまから。また犬が犠牲になってる!こいつら犬になんの恨みが!

P24「益」。水と皿でできている漢字。上の部分水なの!?水が皿からあふれるほどにたっぷりあるさまから。

P38「過」。咼は死んだ人の上半身の骨(冎)、お供え?いのり?(口)をささげるものが、道をゆく(しんにょう)途中にあるさま。やっぱ死と生贄が身近にありすぎるんだよな、漢字。過去も過ち過剰も「過」。だと思えば、あんまり今の身から外れることはするなよっていう示唆を感じる。

P42「確」。石に、囲いをつけ、隹(鳥)を閉じ込めているさま。石のように固く確かなことを示す。動物愛護団体!

P92「災」。上の漢字の「巛」、川が溢れて水害などの災害になる様から、らしい。なるほどお!川が溢れて「巛」…すごい!言われてみればその通りだ!さらに火も入れて、災害の災としてバッチリです。

P108「師」。右側、の「肉」なの!?あいつまた!?「月」に飽き足らず!そして右は「刃物」!?本当に肉を捧げる何かが好きだな……。刃で肉を裂いて捧げる儀式をするものは、やがて引退して指導官等になった様から。

P136「性」。よく見れば「心」に「生」と良さみしかない組み合わせの漢字なのに、博士これは一体……?生は草木が生えている姿のようで、生まれてから備わっている性質のことだそう。なんか今まで、性的な意味で使っててごめんな。

P139「精」。よく見れば「米」に「青」という良さみ、そして案の定「穀物の美しさを表した文字」とあり、いままで精力的な意味で使っていて大変申し訳ありませんでした。本当に綺麗な漢字の組み合わせのはずだが……。

P144「接」。てへんに「妾」。「妾」は古代神に仕えた女の形から。神に近づくさまから「接」だそうだが、もう完全に「妾」の方が気になって仕方ない。本当だ、接って「妾」使うんだ……しかもてへんだ……妾(めかけ)……?それとも妾(あたし)……ヤプーか?いろんなことが気になって頭に入ってこなくなった。

P155「属」。けもののオスとメスが交わる様から。さすがに小学5年生に対応した説明ともなると、だんだんとオブラートの包み方が適当になってきとるな。

P172「適」。しまった、「啇」と「商」の何が違うのかが知りたかったのに「商」の時にメモるの忘れた。まあでも、ここまで来れば法則はわかってくるな。おそらく「テキ」と音読みする漢字では「啇」を使い、「ショウ」と音読みする感じでは「商」を使うとかそういうやつでは?多分あっとると思うが、いつか漢字の書き取りクイズやっている時にこの法則を適用して正解を出したいので、ググらずに楽しみを取っておこう。ちなみに「啇」、「帝」と「口」を合わせたものと聞いて、センスを疑った。いいのか帝?なんか古って漢字に変形しているが?

P179「独」。昔はけものへんに「蜀」だった。「蜀」はオスのけものをあらわすんだ。昔の漢字の中にけもののおちんちんがあるのが分かるかな?孤独の独は、独り身のオスのケモのを表してるんだよって直球な解説が急に差し込まれて、思わず心の中で口笛を吹いてしまった。

P187「犯」。けものへんに「㔾」。「㔾」は姿勢を低くした人の形。もうこの時点で「あっこれ獣相手にやってるやつだな……大丈夫か?」とハラハラしていた。小学5年生相手にどこまで攻めるのか気になりながら読み進めたところ「人がけものに乗り掛かってるようすで、してはならないことを表した文字なんだ」ときて、なぜかガッツポーズをしてしまった。ヒュー!小5、ここまではいける。別の楽しみ方を覚えてきた。

だいぶ長い書き取りをしてしまったが、以上。やっぱり漢字とかいうヤツ楽しいな。最後の小学6年生がとても楽しみ。早く読みたい。

ビデオテープ巻き戻し世代

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映画を早送りで観る人たち ファスト映画・ネタバレ――コンテンツ消費の現在形 / 稲田豊史

よく考えたら、このブログはおおむね本のネタバレをしているネタバレブログなのでは?

ともあれ、時代に沿った本が読みたくなったので手に取った。著者の方はライターで、DVDなどの映像に関する記事を書く際に早送り等をやっていた覚えがあり、内省しつつも、今の時代で流行っている「早送り・ファスト映画・ネタバレ」ってこういうことなんじゃないだろうか?というのを振り返った本……でいいのかな。

この本を読む前に、まず我が身を振り返ってみる。早送り……するなあ。映画やアニメを早送りでは視聴しなけれど、Youtubeでゆっくり解説系動画を見ているときは1.5倍の早送りをすることがある。あとは、iPhoneでKindle本やメモの読み上げ機能を使って音声を聞くときは、1.5〜2倍速で聞く。
映画やアニメを早送りしない理由は、早送りをしようという意識がそもそもないからだろうな。倍速できるよ!と言われても、その気にならないので行動することができず、あえて拒否する理由を考えるなら「場の雰囲気や行間込みで作っているものだから」とかだろうか……でもこれ後付けの理由だな。あとは、早送りしていると常に意識を集中しなくちゃいけないので疲れる、というのがあるかも。息抜きの箇所や、思考をまとめる間も欲しい。
逆に、ゆっくり解説系動画を見るときに早送りをするときは、大体すでに一度見た覚えがある動画で、概ね流れがわかっており、結論をなぞる行為を再度行うときは早く進めてしまう。iPhoneでKindle本を読み上げてもらうときは、活字を耳から脳に叩き込むだけなので、無理なく聞き取れる速度が2倍速(ちょっと厳しいと思ったら1.5倍)にする。メモを取りたいときは大人しく読み上げを止める。

私の現状はそんな感じかな。じゃあ本を読むか、いざ鎌倉!

▼早送りの理由1:供給過多、社会背景
かつてない安価で映像の供給が大量に行われているため、話題になる作品に対する消費速度を上げるべく、早送りという「時短」が行われる。映画やアニメを見る動機が、そもそも世間の話題についていきたい・履歴書に書ける個性を作りたいというコミュニケーションのツールとして使用するためである。大まかな流れの話が出来ればいいので、早送りで見る方がコストパフォーマンスがよく、細部についてはWikiやネタバレで補強する。ということらしい。確かに、映画を観ることや考えること自体が目的ではないから、時間の消費については時短にし、コスパを追求した結果そうなった、というのは納得できるな。これは構わないのでは?「食事はよく噛んでよく味わって食べるのが一番健康にいい」vs「食事は栄養が取れればそれで十分、テレビや新聞を読みながら食べたっていい、うちの晩御飯の団欒はそんなもん」みたいな、まあその人のその時の考えによるのでは、と思っていたら、本にもそのまま「鑑賞=食事を楽しむこと」「消費=栄養を計画的に摂ること」と書かれていて笑ってしまった。考えることが一緒。また、それに加えて、後半では「ここまで若者がコスパ・タイパを追求するのは、そもそも金も時間的余裕もないからでは?」という問いもあった。

他、コツコツやったことが必ずしも報われる社会ではない、という社会背景があるのでは?的な流れには首を傾げる。莫大な時間をかけて得た知識が無駄になる可能性もあるので、コストの消費を抑えて、リスクヘッジする手段が取れるようになったからそうしているということだろうか?まあそれもあるのかもしれないが、コツコツやったことが必ずしも報われる社会ではないのは太古の昔からだし、単に圧縮が手段として取れるようになったという技術の勝利が、コスパ良いものを求めたいという人間の本能を補助しただけのような気もする。つまり、最善は他にあるとしても、この作業もなるべくしてなった善の一つなのでは?みたいな。

映画をちゃんと観る人は、映画を観ること自体が己の目的に含まれており、映画に人生を変えられたことがある、自分の考えを変えてほしい、影響を受けたい、と思っている人なのかもしれない。逆に映画を消費する(と言われてしまう人)は、映画なんかに人生を変えられたいとは思っていない・映画は人を変える力があるとは思っていない(多少思ってはいるが、信じてはいない)、ということかもしれないな。これは偏見です。

▼早送りの理由2:なんでも台詞で説明してしまう
これは分かるかも。台詞で言語化してあると、理解がしやすいし(逆に言えば思考停止できる)、字幕が付けられて早送りにも耐えられるというオマケまでつく。そして逆に台詞がないシーンは飛ばしてもいい目安になる、らしい。これは、私が映画を飛ばさないからいまいちピンとこないのだが、確かに理由を考えればそうなるか。コミュニケーションは言葉だけで行われるものではないが、話題として言葉に出すなら、説明に用いやすいのは原作ですでに言語化されている言葉だろう。「あの時のセリフがすごくかっこよかった、その後のアクションシーンが良かった!」という論調で語るなら、確かに台詞がないシーン(月夜の雲を追う間の8秒とか)は情報量が乏しい、飛ばして問題ないものと認識されるのかも。

▼ネタバレを見る理由1:先に結末を知りたい。
早送りの次は、ネタバレの理由。先に結末を知りたい。これはメチャクチャわかる〜!ピッコマで気になった漫画のネタバレを見てしまってるので、何にも人のことが言えない。要するに、私は「続きまで待てない、耐えられない、分からないことを分からないままにしておけない、想定が間違ってるかもしれないという漠然とした不安から逃れたい」という気持ちがあるんだろうな。今は手っ取り早くネタバレを知る手段がある。なら使っちゃお〜!という流れなんだと思う。
しかし、ネタバレにキレてしまうこともある。意図しない不意打ちで浴びせられるネタバレと、海外アカウントから漏れてくるジャンプの早バレ(発売日より前にリークされたネタバレ画像およびテキスト)だ。これはなんだろうな。自分のコントロール下にないものと、個人的な倫理観が拒絶を感じるものは、イヤだということかな。

▼その他メモ
・エンタメコンテンツを「観たい(鑑賞)」のではなく「知りたい(情報収集)」のは、情報強者がマウント取れる世の中だからでは?
・エンタメをストレス解消に消費しているので、その快適性や確実性が優先される。
・映画館でその一回しか映画が観れない希少性・強制力と、繰り返しいつでも観られる映画としての位置付けの違いもあるだろう。
・今までは映画を受動的に見るしかできなかったが(映画館)、今は能動的に見ることができるし(自宅でDVD)、そもそも配給側からもその消費利用向けのサービスを提供されている(Netflix早送り機能)。
・全部セリフや地の文で説明されると「この合間はなに?」と考える余地がない。思考停止。作り手の意図を100%理解して解釈したいという欲。SNSで発信するためには間違って叩かれるワケにはいかないという誤解への恐怖。作り手側も「よく分からなかった」というコメントが製作者にダイレクトに伝わりやすい時代(もうファンレターは手紙じゃなくてSNSのDM)だからこそ、分かりやすい描写を差し込むというスパイラル。
・そもそも今まで「レコードなんて缶詰の音楽、生で聞いた音楽こそが本物」「小説なんて読むのはバカだけ、大説を読め」「紙で読むという読書体験が大事、電子書籍は紙に劣る」みたいなことを散々時代でやってきたんだから、最終的に「まだ倍速視聴がどうとかで揉めてんすか、令和っすよ!」って着地点もあるだろう、みたいな著者の結論にはメチャメチャ同意する。
・そもそも私もコンテンツ大量消費マンだから全く人のことを言えないし、Amazonで本を買うときも必ずレビューを見てから買う方だったことを思い出した。

メッチャ考えてしまう本だった。