「2022年」の記事一覧

サウダージってポルトガル語なんだ?

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ポルトガル 朝、昼、晩。 / ムラマツ エリコ、なかがわ みどり

いい感じのポルトガル関連の本ないかな〜と思って探したところ、Kindle Unlimitedでポルトガル旅行記を見つけた。Kindle Unlimitedは色んな意味でコスパ良すぎるんだよな。いつも大変お世話になっております。

ポルトガルの首都リスボンや、ポートワインで有名なポルトはそこそこに、聞いたこともないようなポルトガルのマイナー地方で2週間滞在した著者の二人(イラストレーター)の旅行記なのだが、やっぱこの時代(2002年)の旅行記特有のノリがあるな。昔、女優の中谷美紀の旅行記を見た時も思ったのだが、日本に住む私から見ると「海外ってよくわからんアクシンデント多すぎでは?」「現地の人に態度の悪い対応をされて反射的に性格が悪くなる負のスパイラルだ……」「しかしたくましさは身に付いていく」「日本人蔑視してくるタイプに鉢合せすぎじゃない?ヨーロッパ圏は内心見下すのがデフォルトなのか?」となる。やっぱこの手の旅行記って、万事が万事ハッピー旅行記とはならんのだよなあ。しかしそれを含めても文化や景観、何かしらの大きな魅力が、旅行にはあるのだろうな。この本はイラストレーターの二人組が描いた本だけあって、可愛らしいイラストで、しかし現地であったことはシビアに描かれていく。朝、昼、晩と極力ポルトガルの生活を取り入れることで(現地のスーパーで買い物して料理してみたりとか)見えてくる生活を知るのは楽しい。大きなバルコニーで一望する街と夕暮れの眺めとか羨ましいなあ。ポルトガルの歴史みたいなものは全く分からなかったが、サクッと読めた本だった。

生き物が老いるということ – 死と長寿の進化論 / 稲垣栄洋

静岡大学の教授の方の本。植物学専攻だったかな。サブタイに進化論という単語があったので、学術的な話かなと思いきや著者の思想が見えるエッセイ調の本だった。内容自体はまあ、知っていることが大半だな、と思いはしたものの、改めて言語化されたものを読むと「そうかも!」と思えるような話もあり、概ね面白かった。たまに「先生との価値観が合わねえ!」となる箇所もあったりはしたのだが。以下メモ。

・大体の生物は、老いる前に死ぬ。老いて寿命で死ぬということは、現代の人間が獲得した技術とも言える。(人間と共存する生物にも老いは与えられる)

・人間は「おばあちゃん」という戦略を取った。閉経して繁殖を行えなくなった生物を生かしておくリソースを獲得した人間は、その戦略で子孫の子育てを支援することで生存率を上げることができるようになった。

・王子が乗るような白馬の馬は、大体葦毛の馬の毛が白髪になったものである(純粋な馬のアルビノは珍しい)。高貴な王子は老いた経験豊かな馬に乗っているのだ。へえ〜!白馬の王子様の馬に着目したことはなかったので、面白い。

以上かな。

やっぱ、人間が日々新陳代謝を繰り返して、古くなった皮膚は剥がれ、新しい皮膚が下から生まれてくるように、個人個人の死というものは、人間という種族の新陳代謝の一環とも言えるんだろうな。古い細胞が生き続けることは、それだけ突然変異を起こしやすくなって癌を誘発したり、単純にエラーが蓄積したりする。その古い状態になったものが繁殖で自分のコピーを作ると、古い状態ごとコピーされる。それは後々のためにも好ましくないから(秘伝のタレみたいなのにずっと継ぎ足ししていくので)、閉経で繁殖ができないようにするのだろうし、若い状態を繁殖の時期の基準とするのも分かる。そういうシステムが生物のベースだとした上で、しかし、老いることを獲得できた人間は、それすらも何とか正しく使おうと理由を考えてしまう。著者が例えに挙げたのは稲穂だった。稲は、中の米がみっしりと実ってこそうまい食物となる。熟してこそ食い甲斐があるものになる果実もそう。「実ほど頭を垂れる稲穂かな」という諺ではないが、まあ、人間が独自に習得できた進化の一つが老いであるのならば、そこまで老いを悪いように考えないようにはしていきたい。自分の死生観について改めて認識させてくれる本でした。

カッパ巻きがカプ表記になるワケね

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呪術廻戦 196話 / 芥見下々

今週のおじゃんぴ本誌より。

先日の地元の図書館で借りた民話本(浜岡風土記)、『梅林止渇』の他に河童の話も掲載していたのを思い出した。
河童の民話はどこにでもあるって話は知っていたけれど、昭和40年代の手作り風土記にも載っていることを自分の手で直接確かめられたりすると、マジなんだな……!と実体験できて大層面白い。実体験が大事だよ!
それに河童にも県民性が出ているのが面白いんだよな。静岡の河童、問答無用で川に来た欲深婆を食っとるからな。他の県は友好的だったり義理堅さがあったりしてるっぽいのに……!せめて相撲とってから尻子玉抜いてやれ。

呪術廻戦の本編の話。真希vs河童。真希vs河童……??俺は何を言わされている……?でもこの河童、相撲カウンセリング能力があまりに高く、これはもはや乙女ゲーに出てくる女主人公のカウンセリング能力の高さに匹敵するレベル。大変だよ真依ちゃん、真希ちゃんが…河童なんかに…!(河童なんかに?)河童なんかに!河童なんかに…強くなるために他者に頼ると言う発想がなかった真希ちゃんが……ワッ……!あまりに河童が頼もしいので、カッパ巻き(河童×真希)推せます。地元のババア食い散らかした河童はこの河童さんを見倣え!

あと羂索くん、なんでこの河童スカウトした?そしてスカウトするときに相撲した?この二点がメチャクチャ気になる。

若者の深刻なジャワ語離れ

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世界の言語入門 / 黒田龍之介

言語学者の著者が、90種の世界の言語ひとつひとつをテーマにしたエッセイをまとめた本。
まだ心がちびくろサンボ問題に引きづられているのかもしれない(サンボは蔑称じゃなくてインド圏内で普通に使われる名前だよという言語知識は絶対万国であるはずなのに、何とかならなかったのか?世界!的な)

1言語の話題を2Pで語る×90言語という、本をどのページから開いても読みやすい形式で、テンポ良く読めた。以下、心の叫びメモ。

「サンスクリット語がまだ日常会話で使われとんのか……ラテン語と同じ分類だと思ってた……」「奥様が勉強してスロヴェニア語を喋られるようになったくだり、夫婦してすご……。え、奥様スロヴェニア語入門の本を出した!?あ、チェコ語教師!?(wikiで見た)東京外国語大学の教授じゃん!」「言語観、当たり前のように飛び交っているけれど、初めて聞く言葉なのよ」「現代ヘブライ語がある!?えっヘブライ語ってもう今は使われない言語なのではと思ったけど、一人の男が情熱を捧げて現代に復活させたらしい。激アツ〜!」

個人的にめちゃくちゃ気になったのが、ポルトガル語のくだり。ブラジル音楽のジャンルであるボサノヴァで有名な曲「ソ・ダンソ・サンバ」、これがポルトガル語だということをここで初めて知り、驚愕した。黒田先生と同じく私もボサノヴァが好きなので、この有名な曲については知っており、ボサノヴァの歌詞ってずっとブラジル語か何かだと思っていたが、ポルトガル語だったとは露知らず……いやまてよ……ブラジルとポルトガルって、世界地図で見たらどの辺に位置するやつだ…?(Googleで世界地図を見る)ポルトガルはスペインの横?ブラジルは南アメリカだから……アッ……植民地……と薄暗い背景を察しつつ、この辺りの歴史も知りたくなった。(さらにググって)……ブラジルポルトガル語って何だよ!興味が尽きないな、もう!

ちょっと話は逸れるんだけど、ここ半年ぐらい世界地図が欲しいな〜とうっすら思っていた。今までは「世界地図を見たくなったらGoogleMapを見りゃいいじゃん」と思って済ませていたけれど、やっぱいちいちGoogle Mapを広げるのも面倒なんだよな。児童向けのお風呂に貼る世界地図のポスターとかないかとAmazonを見てみたのだが、これがそこそこ高い。うーん。まあ、暫くはPCのトリプルモニターのうち、一番使わないモニターの壁紙にしとくか……と、適当に拾った地図壁紙をデスクトップに貼り付けたのだが、これが面白くてずっと見てしまっている。例えば、TURKEY。黒海の真下にある『TURKEY』って何の国名だよ……?暫く考えたがわからず、ググってみると「ターキー(TURKEY)=トルコ」だった。トルコってターキー!?ターキーってクリスマスの七面鳥のやつ!?えーいどういうことだ!わからん!

ググった結果、どうやら「TURKEY(ターキー)」が英語の正式名称っぽい。日本でいう「トルコ」の読みは、ポルトガル語で「トルコ人・トルコの」を意味する言葉が由来だとか。お前!またポルトガル!……急にポルトガルについての興味が湧いてきたので、関連図書でも調べようかな。

そんな風に異国への好奇心を駆り立ててくれるきっかけを多々与えてくれる、良本でした。

よく眠り、よく起き、よく忘れ、よく覚える

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寝る脳は風邪をひかない / 池谷裕二

著名な脳科学者の先生が書かれた本で、雑誌に投稿していたエッセイをまとめたもの。脳にまつわる知見がいっぱい。以下メモ。

外山滋比古先生の『乱読のセレンディピティ』にもあったように、忘れることは悪いことではない。人は高精度の記憶力を捨て、時に混線が生じる不確かな記憶によって、想像力と創造力を手に入れた。何かの能力を失うことで何かの能力を得る、トレードオフの関係にある。また、ずっと同じ精度の記憶を持ち続けることは、過去を現在のままにすることである、と。私はノスタルジーという漠然とした、どこか懐かしいセピア色の概念を思い出すのが好きなので、それは困るな……!と思ったりした。記憶が色褪せるからこそ、情報に遠近感が生じる。覚えておこう。

世界公平仮説。これは散々触れてきた知識だけれど、気がつけば忘れてしまったりするので、もう一度メモ。因果応報、世界は公平であるはずだという前提の認識でいると、よい結果を持つ人はよい努力をしてきたから、悪い目に遭う人は何らかの落ち度があったからということになってしまう。癌にかかる原因の7割は、突然変異でランダムに発生することで、残りの3割がその他の要因によるものだが、直感的には「あの人が癌になったのは、いつも夕飯がコンビニで買った揚げ物とビールだったからだろうな」などと決めつけがちである。満員電車で痴漢にあったのは、被害にあった女性がスカートを履いていたから。事故に巻き込まれたのは、己もよそ見をしていたから。オリンピックで一位になれなかったのは努力が足りなかったから。ブラック企業で社畜をさせられているのは、その人に辞める勇気がないから。こういう判断はとても楽に下せるが、その直感は、因果関係の正しさを保証するものではない。ただ、己が決めつけておけば楽である、いうだけなのだ。と自分に言い聞かせておく。

しかし、直感的に決めることも一概に悪いことではない。スパッと決められる人間の方が、好みが一貫的になり、また利他的になる傾向にある。熟慮すると利己的、自己中心的になりがちで、好みもブレる、というのは面白い。

自分は社会的が高いと思うと、モラルは低くなりがち。私の社会的地位は高くないので大丈夫だろうとは思うものの、この社会的地位が高い・低いは、やっぱ他人との比較から生じるものだろうな。自分より社会的地位が低い人を相手にしたとき、モラルの低い己が表面化しないように、気にかけてはおきたい。

自分と同じような価値観の人を好むタイプの人々がグループを作った結果、どこにも属せない人が生じ、結果として村八分が起きる。同じ志の人と共に生きたいのだ、という暖かい心だけで、悪意なんか全くなかったとしても、そうなることはある。ブラックシープ!

例え同じ報酬だったとしても、全く労力なしに得られる利益より、少しは苦労があってから得た利益の方が価値がある、という基準が生物にはあるようだ。ねこ様は例外。猫はクソ現実主義者なので、労力のない利益を選ぶ。さすが。

DNAは、外部のメモリなんかよりも、よっぽど優れた情報保存媒体であるということに目をつけた人がいる。結構前から技術が確立されていて、情報の復元もできるが、エラーがそこそこあるっぽいので、そこの精度を高めていくのが課題だそうな。エ!?じゃあ全人類の叡智を、最終的に人間個人とマージすることもできるようになる!?(飛躍)

人工知能と人間、得意とする範囲が違うので、別々に何かやるよりもタッグを組んで仕事した方が生産率高いっぽい(バディ!)

人間はD4遺伝子によって、不公平を感じる配分が変わる。そして、その遺伝子による性格は、生まれた時期によっても強弱が変わる。男性は夏季、女性は冬季に生まれた時に影響を受ける。生まれた時期によっても性格が変わるってことは、星座占いというものも、あながち的外れなことではないのかも?というのは面白かった。メモは以上。

世界中の梅林止渇を集めてみたい

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勉強が面白くなる瞬間 / パク・ソンヒョク

勉強の効率化?エビデンスのある学習法?そんなことよりまず先に自分で決意するべきことがあるだろ!というような勢いで、いい意味での精神論・根性論を叩きつけてくるお勉強の本。前半がメチャクチャ良くて付箋だらけになってしまった。

勉強とは、常に自分の不甲斐なさ、物分かりの悪さ、勉強をサボって時間を無駄にしたという後悔というネガティブさと向き合いながら、自分を成長させるための行為である。もっと言えば、勉強を決心する瞬間には「熱意」「チャレンジ精神」が必要だし、続けていくには「積極性」「体調管理能力」「集中力」「根気」、逃げない自分になるための「自己説得力」「自制心」なども身に付けなくてはならないし、達成すれば「自信」「目標達成能力」、国語は「語彙力」「表現力」、数学は「観察力」「論理力」「推理力」が鍛えられ、と次々に自分を鍛えるものであり、などと説得してくる文章の熱量と、「夢とはなりたい職業ではなく、自分が生きたい姿である」という締めくくりにグッとくるものがあった。勉強のモチベーションに最適な一冊のように思う。

ぜんぜん関係ないんだけど、三国志の曹操が『見よ兵士たち!もう少し先を行けばうまい梅があるぞ!』と梅で兵士を鼓舞して勢いづかせるシーンが本の中の例え話で出てきた(四字熟語『梅林止渇』の語源らしい)。この梅の話、私の地元の民話にも『ここはかつて徳川の兵が通った際、将軍が疲れた果てた兵士たちに、あの向こうには梅がたくさんなるのだと〜』的な同じようなヤツがあったのを思い出して、メチャクチャ笑ってしまった。これもしかして、世界中に似たようなパターンの梅話があるやつ?

浜岡風土記 / 浜岡史談会