読書:脳の地図を書き換える / デイヴィッド・イーグルマン
脳の本を何冊読んでも、自分の脳がより高度になる訳ではない(戒め)
スタンフォード大学の神経科学者が脳について語っている本。まだ若く脳の可塑性が保たれている状態なら、人は脳の半分が除去されても、十分に生活することが可能である。盲目になった人間は、肌で音を感じるし、視野情報を扱う脳の領域は点字を読む際にも活性化するようになる。そのように、「脳は絶えず自らを改造する汎用的パターン認識器」として捉え直すことを著者は提唱している。
以下メモ。
・当初学者は、人間の遺伝子は複雑で、数にするとおよそ数十万個はいると決めてかかっていたが、実際には二万個だった。人間が生まれた時、脳の台本を前もってすべて書いてはならず、基本構造だけの状態で世に出る。その基本構造だけを持ち、精緻にして行くことは外の世界に任せるのだ。このため、出産時の人間の脳は著しく未完成であり、完成させるには世界その相互作用が欠かせない。
・脳は課題解決装置だとする仮説がある。つまり、脳が気にかけているのは、何かしらの課題を解決することであり、その解決のために用いられる情報が、どの感覚経路を通って届けられるかは関係がない。目が見えなければ、肌で見ても良いし、音で見ても良い。脳の可塑性が保持されている限り、問題解決に適した状態に作り替えようとする。
・しかし、世間の定説では、歳をとると頭が固くなるとされる。脳は、既存の内部モデルと現実との差異があればあるほどそのギャップを埋めようとして改造をする傾向にあるのだが、歳を取ると、物事の予測を立てたり、スルーしたり、自分の解釈の応用で現実の出来事を収めてしまうことが上手くなるため、若い頃ほど脳を書き換えなくても(頑固なままでも)問題は解決できることになる。
・ネルソン提督は、右腕をなくし、幻肢感覚(存在しない腕がまだあるように感じること)から、「これは死後の生を議論の余地なく証明するもの」だとした。つまり、実際の肉体がなくても、肉体があるように感じられたことから、死後の霊体を信じられた。しかし、幻肢感覚は、まだ、右腕の感覚の入出力を受け付ける脳の領域が残っていることに起因すると思われる。
・使われない脳の領域は、徐々に他の用途に使用するために乗っ取られる。この脳の土地をめぐる領土の競争問題に関連する話として、一つ、夢についての仮説がある。地球は自転しているため、大体12時間サイクルで、生物は闇に放り込まれることになる。この間、脳は視覚視野を満足に使えなくなる。脳は数十分でも変わってしまうため、視覚を重要なセンサーとするならば、常に視覚視野を刺激することが望ましい。夢を見るのは、視野の脳領域のシェアを奪われないためのものでは?(これが面白かった)
・「あなた」と呼ばれている存在は、経験を入れる器であり、時間と空間から小さなサンプルが切り取られて、その中に注がれる。