「2022年」の記事一覧

漫画:一級建築士矩子の設計思考 1巻 / 鬼ノ仁

水色チェックマークのあるタイトル作品のネタバレを含みます

タイトルを入力していて思ったんだけど、もしかして設計思考と設計施工をかけとる?ともあれ、一級建築士の方が描いた一級建築士の漫画。確か結構昔にTogetterの記事で知って、そのままKindleで購入して積んでしまっていたんだったかな。該当記事はこちら。

一級建築士・1級建築施工管理技士の資格を持つ有名なエロ漫画家「鬼ノ仁」さんがついに建築漫画を発売!じゃないのよ。そんな設定の人なんだっけ!?忘れていた。まあでも、作中にそんな要素は、そこまで感じなかったのでセーフよ。建築学科の犀川先生、建築探偵・桜井京介、と最近建物関係の設定を見ていたから、この漫画のタイトルが視界に入った時に開いてしまった。

一級建築士矩子の設計思考 1巻 / 鬼ノ仁

建築とお酒が好きな一級建築士の古川矩子が、独立して自分の事務所兼飲み屋を開いたところからスタート。私に建築系の知識は無く、せいぜいゲームでシムピープルやシムズを遊び倒した程度だったので、こんなにも図面が出てきたり数値が出たり、安全対策・法律などの知識がガンガンに詰め込まれた漫画の情報量に圧倒されてしまった。細かいところは正直分からんのだが(私は雰囲気で建築漫画を読んでいる)、それでも十分面白かったな。あらゆる創作がそうなんだけど、出来上がった作品は、その価値を担保しようとすると人の手による維持管理が必要になるかとは思う。建築にもそれが言えるわけで、設計も大変だし施工も大変だし、その後のメンテ管理も必要だしとあらゆる工程が人の手で行われているのに、立派な建物を見た時、私は、特に人の生活を思い浮かべたりしないんだけど(絵画は絵画だなあ〜くらいの感覚で、描いた人の背景や時代などにじっくり思いを馳せたりしない)、やっぱ建築士ともなると、常に建物と人との接点を深く観察されてるんだな。そういう視点の違いが、一番面白かったかも。

読書:読書について / 小林秀雄

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昭和初期にご活躍された批評家・小林秀雄のことは、数学者・岡潔と対談している本が出ているということで初めて私が知った人物である。その流れで「小林秀雄対話集」を読んでいたところ、時代が昭和だし(良い悪いという意味ではなく、前提となる暗黙の了解的な時代背景が察せないという意味、だって冒頭の坂口安吾との対談、昭和23だもんよ)、一角の人物同士がバチバチに自分の物差しで遠慮なくやり合っているので解釈に時間がかかって仕方なく、もうちょっと凡人に向けた小林先生の易しい本とかない?と言う不純な動機でこの本に手を出した。この本なら、タイトルも今まで十数回くらい読んだようなやつ(読書について)だし、たぶんギリギリ理解はできるはず。一旦これで小林先生の価値観とかを薄く学んでから、また対談本に戻るか〜と考えはしているが、すでにまた今の自分に余るものに手を出している感は拭えない。

読書について / 小林秀雄

た、助かった〜〜〜!!いろんな雑誌に出していたエッセイや対談のうち、「読書や文章について」をテーマとして、比較的分かりやすい印象のテキストをまとめて出しましたみたいな本だ!さすが!需要を分かっている!

とはいえ、まだ先述の対話集に比べたらかろうじて分かる程度なのだが、これまで読書術的なジャンルを何となく歩いていた経験で半分くらいはなんとかなった。乱読のセレンディピティではないのだが、ガンガン並行して乱読してよし、これはと思う名作家を見つけたら日記の隅々まで暴くつもりで徹底して、全作品を焦らずじっくり読んで人となりを知れ、それがやがて己を知ることに繋がる、他人というのは自分を知るための鏡である、などなどの前提のお話から、印刷の普及に伴って世には書物が溢れるようになったが、そのスピードに対して人間の処理速度は追いついていない。得られる文字数がどんなに多くなろうが、いちいち目で文字を追い、自力で判断をし、納得し、批評をし、心に一世界を再現するという話がある、というくだりもあり、「確かに最近、本を読む速度と理解度はトレードオフの関係で、理解をしようと思ったら読む速度はどうしても落ちるというのを見たな」と合点がいったし、最近のトレンドと比べても的を射ているのは凄いなあと思った。これが批評の神様か〜。

また、「美を求める心」についても意見があった。絵や芸術などというものは、まず頭に入った知識で解釈して読むものではなく、ただありのままを感じることが大事である。見慣れることが大事である。美しい花を見るためには、まず沈黙に耐える必要がある。ただ美しい花を見るとき、なんだスミレか、などとすぐ言葉に変換し、頭の中で分かった気になって立ち去ってはならない。美しい花の絵を描く時のように、じっと観察する。外からの美で美しいと思わされるのではなく、ただの素朴な花であっても、観察する己の内から美を感じるようになれる。美が分かるというのは、頭の中の知識の解釈ではなく、ただ素直に感じる心なのである、と。そしてちょっと飛んで、これと同じように、文学や詩などは、まず最初に、時代背景や文学ジャンルなどの知識に惑わされるのではなく、ただ素読・暗誦せよ。みたいなくだりは、「ある意味、湯川秀樹の著書・創造的人間で見たヤツ(祖父に小さい頃から、意味もわからぬまま漢文を素読させられていたが、その経験が将来的には物理学を収める上でも役立った)だ〜〜〜!!」と妙なセレンディピティが起こり、ちょっと嬉しくなってしまった。

取り止めもない感想になってしまったが、先述の対談本と比べて本当に易しい感じで小林先生の知見を学べるのが本能に助かる、小林秀雄先生の本を読む意欲のブースターとして最適な本だった。

読書中

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本日特に読み終えた本や漫画の類がないので、読んでいる最中のものを並べておく。

▼今読んでいる本

・YOUR TIME / 鈴木祐:昨日出たばかりの新刊。いわゆる時間術の本。時間術に興味があったと言うよりは、シンプルに作者買いなのだが(毎月ニコニコで550円払ってこの著者の記事を読んどる)、ここ数作の間で一番興味深い内容かも。まだKindleで12%までしか読んでいないが、この時点で相当面白いぞ。

・小林秀雄対話集 / 小林秀雄:いきなり坂口安吾と対談しているの強すぎない?この後に三島由紀夫までリストにあるので二度見してしまった。昭和の批評家すげえんだな。

・まず牛を球とします。 / 柞刈湯葉 :短編集の3本目、「数を食べる」を読んでいるところ。短編集、日付が開いても読み直すのが簡単だし、キリがいいところでやめやすいから本当に助かる。久しぶりに短編集とか読んだかも。

▼直近で積んでいる本

・新版 ハマトンの知的生活/ P.G.ハマトン:Kindleで買って41%まで読めたのに、うっすら「この著者と考え合わないかもしれない…」と不安を抱いている。

・美の概念 60 / 城一夫:印象派やアール・ヌーヴォーなんかの時代を代表する芸術ジャンルの解説本。ビジュアルが多めで文字少なめと人に優しいので、これは前向きに読む気がある積み本。

漫画:スナックバス江 252話 / フォビドゥン澁川

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ヤングジャンプ、当時連載していたゴールデンカムイを追いたいな〜と思ったのがきっかけで手を出し、終わった今となっては主にジャンケットバンクとスナックバス江を見ているのだが、今回はスナックバス江のダイエットネタがメチャメチャ刺さって笑ってしまった。

スナックバス江 252話 / フォビドゥン澁川

スナックバス江はヤングジャンプで連載中の漫画。場末のスナック「スナックバス江」を舞台にして、そこのチーママが主人公なのだが、主に常連客を相手にした小気味よいギャグディスカッションで進んでいくという、だめだ、私には言語化ができないが、まあともあれ風刺とキレのある掛け合い、真理かもと一瞬思ってしまう名言などを見せてくれる一話完結型のギャグ漫画である。結構Twitterとかでネタ画像が出回っているので、絵柄を見れば「これかぁ〜!」となるかもしれない。公式でSNSで使っていい画像を100個くらい用意してくれているので貼っておく。

会話のやり取りが面白くて、1話に対してページ数少ないのに、お腹いっぱいになる感じ。

「ハーブか何かやっておられる?」
「すぐ謝っても怒られるでしょう!?どうせ謝るならコスパ良く許されたい!」「気持ちはすごくわかっちゃう…!」
「目標はなんと言っても結婚やからね…?」「いきなり目標が高すぎるの(ルビ:イカロス)よ」
「クリスマスソングって聴こえてくると苦しくならんか?」「闇属性だから聖属性で弱点ダメージ食らってんの?」

今回のヤンジャンは週明けに読んだので今更の話題なのだが、その雑誌に載っていた話がダイエットとルッキズムをテーマにした回だった。森田というイケてない常連客いるのだが、人間の価値観が変わる時代を待つよりも自分が痩せた方が早い的な理由から普段敵視しているルッキズムに迎合して、ダイエットを始めた。

右下が森田

無茶なダイエットをしようとする森田に対して「ダイエットは無理せず続けるのがいいのよ!」と主人公のチーママ・明美がアドバイスするのだが、どうしても痩せたい森田は「もっと苦しんだ方が痩せられるのでは?」と言う考えに陥ってしまっていた。それを見た明美が、「苦行主義は釈迦も否定しているわよ…!」と的確に返したのをみたダイエット中の私、なんかワケが分からんくらいウケてしまって、本当にもうワケが分からんくらいウケてしまった(?)

確かに私もここ2ヶ月、空腹をただの根性で乗り切りがちであり、まあ結果が出てるから…!と自分を納得させていたのだが、確かに釈迦も断食での苦行は否定していたなあ〜〜〜〜〜!明美ちゃんがそう言うなら…無理して根性を使わなくても良いくらいのギリギリのカロリー上限を見極めて、無理せず続けよう…

お笑い代としてこのスナックに金を落とすべく、とりあえず単行本を買って読んでみたのだが、1話1話のカロリーがラーメン二郎並みだし、以下の会話が出てきて笑っちゃった。

「でも単行本を買うほどじゃない漫画ってあるじゃない?」
「なんてことを言い出すんですか!?」

読書:せかいいちまじめなレストラン / たしろちさと

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今日は心に余裕が持てるものを眺めるぞ!というわけで、絵本を手に取った。これなら私の心の余裕を奪うものは……いや、絵本といえども、そんなのいっぱいあるな……まあ多分、大丈夫だろう!せかいいちまじめなレストランだから!

せかいいちまじめなレストラン / たしろちさと

うっすら警戒しながら読み始めたものの、最初の1ページ目の、主人公のシェフがきっかり朝7時に起きて職場に向かうところで完全に警戒を解くことができた。注文の多い料理屋みたいなレストランじゃなくてよかった。なぜ私は絵本にこんなにも警戒しているのか。こんな大人になるはずじゃあなかった。

ともあれまじめなシェフは、いつも決められた通りに起きて、支度をし、お店を開く。お客さまからりんごジュースが飲みたいと注文されれば、家の裏のリンゴを取りに梯子を抱える。魚料理を注文されれば、いいおさかなを釣るところから始める。家出をした子供と、子供を探しにきたお母さんには、心のこもった暖かいカレーを。出てくる料理はみんな美味しそうで、それは、まじめなシェフが心を込めて作った料理だと分かる。そんな1日を日常とし、今夜もシェフは眠りにつく。なんていい世界だ……なんて素敵な絵本だ……こういうのだよ、求めていたのは!

たまには大人がニコニコしながら読み終わる本があっていい、そういうことを実感させてくれるよい絵本だった。