読書:66歳、動物行動学研究家。ようやく「自分」という動物のことがわかってきた。 / 竹内久美子
動物行動学か〜〜最近、Youtubeのいんよう!チャンネルの科学ニュース雑談で見た、「働きアリにおける分業の維持機構に新たな視点」という話がメチャ面白かったな……ということを思い出して、手が伸びた本。
この本は、『66歳、動物行動学研究家。ようやく「自分」という動物のことがわかってきた』という長いタイトルがそのまま本の概要になっているのだが、動物行動学を専攻とする著者が、「これまでの自分を振り返った人生編」と「人生から学んだことを述べる考察編」についてを書いた本になる。
著書名を見ずに読んでいたせいで、男性が書いたんだろうなと思い込んでおり、「女のドロドロさに対する描写が結構具体的で、逆に今時珍しいな、こんなジェンダー気にせずバッサリ書いてくるのは……おや…?生涯の友が女性2人…?あっ、書いてる人女性だ!」と気付くまで結構かかってしまった。なんかのバイアスがあるんやろな、ちょっと反省した。
動物行動学についての知見が面白かった所をメモ。
・前提として、基本的に生物は繁殖行動を目的としているので、生殖能力の質の高さがその個体のジェンダーとしての価値になる。メスは一度妊娠すると、妊娠期間・出産・その他諸々の子育てといった多大なリソースを必要とする上、次の子供を得るまでにスパンが開くので、オスを選ぶ目が厳しくなる。オスは、メスを妊娠させるまで・させた後にかかる労力はほとんどないので、メス側に一定の生殖能力への期待(若さとか)があれば、メスほどは厳しく選ばない。よって、この基準に当てはまるものは、メスがオスを選ぶことが原則となる。(鳥とかはオスの方で華やかで美しいのははそういうやつね。世の女性が若作りするのも、生殖能力のアピールだといえる)
その上で、オスとメスの役割が逆転している鳥もいる。その鳥は、メスの方が美しく、オスの方が子育てをする。そうすると、オスの方が厳しくメスを選ぶようになる。
これらから見る本質は、「よりエネルギーを使い、拘束時間も長い、つまり一回の繁殖に対する投資が大きい方の性が、相手を厳しく選ぶ」ということになる。(当たり前のことのようだけど、言語化してもらって改めて「なるほど!」と思えた)
・免疫ってすごい。免疫力が高いやつは生命力も高い。だから免疫力が高いやつはモテる。(そうか?と思ったが、確かに病原菌に対する免疫がないとどうなるかはアメリカ大陸の歴史が物語っとるし、何より今コロナ渦だしな)
そういう意味では、島国である日本の場合、免疫力の集団獲得に祭りは有効である(2022年8月の阿波おどりで1/4がコロナに感染したやつだ…)。
人間はシンメトリー性を好むが(顔が左右対称である方がよいとされるやつね)、実際はさまざまな要因があり、完全にシンメトリーになることはない。そのシンメトリーを妨げる最大の要因は寄生虫・バクテリア・ウイルスなどによるもので、つまりそれら、シンメトリー性が一つの手がかりとなって免疫力の高さを押しはかることができる。ちなみに免疫力の高さは、主に男性側に求められる素質である(男性の方が、ルックスの違いで給料の格差がすごいっていうもんな)。ちなみに体臭の臭さが嫌われるのは、臭いの原因であるバクテリアの発生を抑え込める免疫力が見込めないことから…?なんかもう…免疫力って…すごい!(すごい!)
・政治的立場を「保守的」「リベラル」と二つに分けた時、その立場で嫌悪感受性の強さがわかるのではないかとする研究があるっぽい。保守的な方は嫌悪感受性が強いとされ、病原体の脅威にさられることや衛生状態に敏感、つまり危険なものには近づかないとするのでは?みたいな。そう考えると、リベラルは、「とはいえ、新しい免疫性を取得せんと、ヤバいもんが来た時集団が全滅することがあるやろがい!」みたいに飛び込んでいけることなのかな。やっぱどっちの人間も必要なんだなあ。
・いかにも賢そうにしゃべるやつは、「いかにも賢そうにしゃべる」ことにリソースを振り割っているだけだ。その能力と知識があれば大体やっていけることが分かってるため、実際の能力とはそこまで結びついとらんから、話を間に受けるな(先生!?偏見では!?しかも割かれているページ数多いな!?)
他にも面白いところが沢山あった。ちょっとだけ、著者の自他問わず向けてしまう攻撃性というか、不安定さ?が気に掛かるところもあったが、そういうものも込みで、今も著者は現役の研究家なんだろうなと思える、勢いのある本だった。ようやく「自分」という動物のことがわかってきた、というタイトルは、そういうことかもしれない。