あなたは誰ですか?
読了。本が提示した、現代の「大量の情報を得ることに追われて、自分の頭で課題を解決する時間がなくなる」ことについては、既にいろんな方が問題提起している。確かに、昔のように特定の会や流派に所属していないと得られない知識などという場所による格差などは減りつつある。実際に情報に恵まれていることで、学習も検討もしやすく、全体のレベルも上がってきている。しかし、情報処理を行うだけでも脳のリソースは十分に使用されることになる。すぐに新しくなる情報を浴びるように受け、それに追いつくことに一杯一杯になると、自分で深く考えること・知見を広げる想像力に回すリソースが減るだろう。みたいな話だったと思う。
個人的な感想ではあるが、最新の知見・技術など、新しいことを取り入れるのが最も効率が良いとされるような前提が世の中にはあるような気がするな。自分が考えることはすでに誰かが深く考えているだろうし、それを見つけて解釈した方が早いとされる常識が根底にあるような気がする。
だから新しい情報を追い続けることにリソースを割くのは間違いではないと思うが、問題は「世の中のみんな」がそのような方法に飛びつくことが当たり前になることで、返って思考の独自性や多様性が世間から失われることである。誰もが同じことを同じように学習し、種族全体のレベルは上がるものの、個人を個人たらしめる個性による創造性は損なわれる。そもそもこの学習法をやり出したら、人工知能が上をいくのは分かりきっていることではないのか?人間にできることは何か?みたいなことを次々に投げかけられ、考えさせられる良本だった。