Kindleのセールをやっていた時に買ったまま積んでいた漫画。私が散歩をするのが好きなことと、「孤独のグルメ」で有名な久住昌之先生、谷口ジロー先生両名の漫画ということで購入を決めたんだったかな。
主人公は、文具会社に勤めるごく普通の既婚サラリーマン。
この漫画のテーマはタイトル通りに「散歩」と、あと通販生活さんという物を売る雑誌に掲載されていた漫画であるため、「物を買う」シーンがある事、ターゲット層が主婦層なので主人公が妻帯者であること、などのちょっとした縛りを上手く使った、一言でいえば散歩を絡めた日常系の漫画になる。やっぱ玄人の先生だな……と思わされる静かな世界観、そして主人公が歩いている、その背後にある風景の細かい書き込みが大変良い漫画だ。
また、1話完結型の漫画数話が全体の7割、その話についての解説や裏話をしている「あとがきにあえて」という文章が3割という構成で、ページ数から感じた印象よりもずっと読み応えがあった反面、「これは私が若い頃に読んでいたら、つまらん認定したかもしれん」とちょっと考え込んでしまった。
特に事件が起きるわけでもない、意外なオチがあるわけでもない、文具会社に勤めるただの既婚サラリーマンが散歩して、何かを見て何かを思い、ちょっとした物を買う、というそれだけの描写に終始する漫画なので、そのストーリー性や描写の細かさに何かを見出そうとする意識や気持ちの余裕がいるのかもしれないな。
著者たちの代表作である「孤独のグルメ」は食事という目的と快楽に読者は共感することができるが、ただ目的もない散歩に共感する読者はそんなにいるか?と一瞬考え込んでしまったが、よくよく考えればこの漫画の読者層は、漫画を掲載している通販生活という雑誌を楽しみにしている主婦層であるので、晴れた日に外に出ること、ちょっとした物を買うこと、生活圏の変化にふと気づくことに、私が思っている以上に目線を合わせやすいという事なのかも。
久住先生が自分で仰っていた通り、作者お二人が描かれる作品に「奥さん」という属性の登場人物が出てきたことも、新鮮さと、地に足がついた生活感が出ていたと思う。
言語化するのが難しいが、「大人が描いた、大人の漫画を読んだ」という気持ちになれる、いつもと違うタイプの良い漫画だった。