「地理」の記事一覧

読書:はじめての動物地理学 なぜ北海道にヒグマで、本州はツキノワグマなの? / 増田隆一

水色チェックマークのあるタイトル作品のネタバレを含みます

私がこの世で恐ろしいと思っている存在の一つに「人肉の味を覚えたクマ」があるわけなのだが(吉村昭の『羆嵐』を読んだばっかりに)、そのせいもあってか、この本のサブタイ「なぜ北海道にヒグマで、本州はツキノワグマなの?」に意識が引っかかってしまった。確かに北海道のクマ=ヒグマという認識ではあるものの(羆嵐、ゴールデンカムイの影響により)、ツキノワグマって日本のどこからがツキノワグマなんだ…?という疑問を持つにいたり、手に取ってみることにした本。

はじめての動物地理学 なぜ北海道にヒグマで、本州はツキノワグマなの? / 増田隆一

そもそも『動物地理学』ってなんだろう、虎は日本にはいないのは何故かみたいなヤツ?と大雑把な認識で読み始めたのだが、前書きの説明曰く「動物が、大昔から、地球上をどのように移動してきたか(パンゲア大陸移動説を含む、大陸の分割・結合による影響があり、その土地に適応しようとした種の進化がある)」「世界のどこにどのような動物が分布しているか」ということを考える学問らしいことが分かった。

サブタイにあったように、日本にあったクマの種類の分布を見ると、大雑把に「ヒグマ=日本では北海道にのみ生息し、以南の日本には居ない」「ツキノワグマ=北海道以外の本州・四国・九州に生息し、北海道には居ない」となる。この二種のクマは、津軽海峡でスッパリと分布が分かれて、これが何故なのか?という疑問に対し、動物地理学は以下のように推測を立てる。

・地球が氷期の時代に入ると、海峡が浅いところは、氷や諸々の条件で陸化して大陸同士が繋がる。世界的に見て、ヒグマは亜寒帯に生息し、ツキノワグマは暖かい地方に住むので、大陸がつながっていた時に、ヒグマは北の大陸側から、ツキノワグマは朝鮮半島を経由して、などと各々上下から入ってきて、温暖化と共に陸化していた箇所が海に戻ると分断されたのではないか?

・北海道と本州北端(青森県)を繋ぐ津軽海峡は、有名な動物地理境界線(ブラキストン線)がある。動物地理境界線(ブラキストン線)とは、その線を境目に、動物の種類が大きく異なるラインである。津軽海峡は、海底200mを超えるため、氷期でも陸化できなかったっぽい。よってヒグマは、氷期であってもこの線より南下して本州には辿り着けず、またツキノワグマもこの線より北上して北海道には辿り着けなかった。(正確にいうと、大昔のヒグマの化石が本州で見つかったこともあるが、縄文時代以降は発見できないため、本州に渡ったヒグマは絶滅した)

・よって、北海道=ヒグマ、それ以外の本州はツキノワグマが分布し、今に至ることとなった。

というような感じで説明できるっぽい。(ふんわりとした理解)

大陸の移動や、氷河期・温暖化の諸々の条件によって動物の分布や移動、進化や固有種ができるなどなど、確かにこれは「動物地理学」だ…!と納得ができて面白かった。

その他クマ以外の動物地理学の話題も多々出てきており、進化と変態の違い、寒い地方に住む動物の体躯が大きくなる理由、クジラは陸から海に戻った種でカバに近い説がある(ペンギンで見覚えのある流れ)、外来種の定義、パンデミックに至るまでなどなど、総じてどの話題も興味深く読める良い本だった。動物、植物、地理の地球史欲張りセットと言える。

読書:日本の渚 -失われゆく海辺の自然- / 加藤真

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何も読まずに1日が終わりそうだったので、とりあえず何も考えずに手に取った本なのだが、あああ!寄りもの!寄りもののことが書いてある!海に打ち上げられる鯨!渚の恩恵!海の向こうから降臨する、まれびとという名の異郷の神!サマータイムレンダで見たやつ!昨日見たやつだァー!しまったこっちを先に読むべきだった!こっちを先に買っていたのに!そんなあ〜……岩波文庫だからって積んだりするから……ぴえん……。

読書:サマータイムレンダ / 田中靖規読書:サマータイムレンダ / 田中靖規

日本の渚 -失われゆく海辺の自然- / 加藤真

ヴー!(ゴリラの唸り声)自分の不甲斐なさに恥入りながら読了。白砂青松、よき描写。

読み終わった後に思ったことは、「この著者に絶対の力を持たせたら、おそらく海のために、文明を覚えた人間の悉くを滅ぼすだろうな……」の感想に尽きた。サブタイにもあるとおり、この本は「失われてゆく海辺の自然について」をテーマにしているのだが、人間の愚かさで海の生物が死滅していく話が1000回くらい出てくる。マジで1000回くらい出てくる。毎ページに、海を蔑ろにするすべてのものへの怒りが滲み出ている。多分、魔王ってこういう成り立ちから誕生するんだろうな……と、うっすら思ってしまった。最後の後書きで少しだけ人間の善性への期待を寄せるあたりもそう。

渚とは、海と陸が交わるところにあり、海と人間の接点でもある。島を美しく縁取る白砂のありか。陸の生命が這い出たところ。かつて沖縄には『ニライカナイ』という概念があった。海の向こうにあると信じられている理想郷の一種である。その楽土から流れ出たものとして、浜辺にはさまざまな海の恩恵が齎された。貝殻、流木、クジラ。海から寄せられる波に乗って恩恵は齎される。これが、先日のサマータイムレンダでもあった来訪神信仰の一種であるが、しかし、天の恵みと信じられる海の巨大な神聖さは姿を失いつつある。

悲しいことに、海は無限ではなかった。無限ではなくなった。
埋め立てによって壊滅する生態。他所の砂で人工的に作られる浜辺は、その砂に依存している環境を壊すし、海辺の濾過装置として働いていた生物は消えてなくなる。撒かれる除草剤は川を伝って海へ流れ、海藻を殺す。海藻は色々な生物の棲家であり繁殖地でもある。ダムで水が澱み、大量発生するプランクトンによる水質汚濁で、川の魚は死ぬ。などなど。このように、生物多様性を謳っているはずの人間によって、海の生物多様性は次々に死んでいく。『すべてがFになる』で犀川先生が言っていたように、人間は環境破壊生物であり、人間は自然を破壊する能力で選ばれた種族なんだなあ。

読書:読むだけですっきりわかる「やり直しの日本地理」/ 後藤武士

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このようなかなしい事件が起きたため、とりあえず九州を中心に県の位置関係を確認するべく、日本地理系の本を手に取った。地図だけでも十分っちゃ十分なのだが、そもそも日本の地理を覚えたいなんて動機は、私の場合、その周りの歴史とか文化とか興味があるな〜って時にふと思い出して紐づけて喜ぶ要素を増やしたいということなので、地図と本の両方で学習することにした。

読むだけですっきりわかる「やり直しの日本地理」 / 後藤武士

ほぼほぼタイトル通りの内容の本。日本都道府県の大まかな地形、産業、観光資源、山脈・平野等を適度な隙間で教えてくれるので、興味がある場合は、ちゃんと頭に入る良い本でした。さすが、すっきりわかるシリーズで累計360万部売れたと帯に書くだけはある。(権威に弱い)

この本、時代に合わせて改訂を重ねているらしく、現時点で「読むだけですっきりわかる日本地理 令和版」が最新であることに気づいてしまった。まあ……いいか!

本のつくりとしては、北海道から順に南下してみていく構成になっているのだが、鉄は熱いうちに打てともいうので、今一番関心のある九州のページを真っ先に開いた。九州、食べ物が美味しいイメージなんだよな。
そして、名前はよく聞くけれど、地形として把握していない島が九州にはいっぱいある……。壱岐(邪馬台国かもしれないところだっけ?)、屋久島(仮面ライダー響鬼)、種子島(鉄砲伝来)、天草諸島(諸島なのは分からないが、天草四郎時貞・島原の乱あたりだろうと見当がつく)、対馬、五島列島など。

解説を読んでいて気づいたのだが、言われてみれば九州なのに七県しかない。もしかして心の綺麗な人間にしか見えない県が2つもある?この辺り学校で習った時も思ったはずだが、すっかり忘れていたあたり、己の九州に対する興味の無さを自覚させられた。九州なのは旧国名が9つあったなのね、心の綺麗な人間にしか見えない県ではなくて、知識を持っている人にしか見えない県だった。

▼とりあえず、ざっと見てちゃんと位置を覚えた!と思えた3県
・長崎県:ポルトガルと関係があるし、ここは元々覚えていた。対外貿易。南蛮貿易。出島。砂糖がいっぱい入ってきたので甘いもののメッカとなる(九州醤油は甘いというアレには業を感じる)。ポルトガルから入ってきた長崎のカステラ、金平糖。修学旅行先であったが、カステラを買って帰った以外の思い出は特にない。
・熊本県:九州の真ん中にくまモンが鎮座するイメージ、天草諸島がある。
・鹿児島県:薩摩藩はさつまいもの語源、さつまいもの別名は唐芋、唐は中国、だから中国の海側。桜島、種子島、屋久島を抱える。この覚え方だと、薩摩の場所はわかるけど、薩摩=鹿児島と結びつかないかもしれない…。鹿児島は桜島の古地名。ちょっと苦しいか。さつま・かごしま。最後の「ま」揃えで暗記できそう。

▼長崎の関係性で覚えている県
・佐賀県:よく分からんけど、シュガーロードで長崎と繋がりがあるという話だし(サガだけにシュガーなんてなガハハ)、長崎の隣にあるはずでは?

▼位置も名前もはっきりしない県
・福岡県:?
・宮崎県:??
・?:あと1県なんだ?咄嗟に出てこないので考えてしまったが、そうだよ大分県。

改めて地図をみる。そのあと本を読み進める。

・福岡県:本州の山口と若干接触しているのね。北九州。博多。シュガーロードに含まれる県(南蛮貿易の長崎街道は、長崎→佐賀→福岡→本州なのかな?)。かろうじて覚えられる。
・大分県:別府温泉の別府なんだ。四国寄りの方。
・宮崎県:上記6県のどこでもないところ(地図の右側)

興味がないと覚え方が雑で根拠も薄い……!!大丈夫か!?ちょっと自分が心配だが、九州の県の場所はフンワリ覚えることができたので、今日のところはよしとしよう。いずれ興味が湧けばちゃんと覚えるようになるだろうし、その日まで寝かせておくか。

読書:面白くて眠れなくなる地学 / 左巻健男

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最近、地理に興味が出てきたので手に取った本。
人生で地理に興味が出てくることなんてあるんだ…世界史がなんとなくわかってきた結果、世界地図を見ることも面白くなるなんていう日が来るという想定は今までなかったのだが、まあ興味があるうちに初心者向けのものから見て勢いをつけようという魂胆である。

面白くて眠れなくなる地学 / 左巻健男

・アトランティスの存在について言い出したのはプラトン。そのアトランティスを発見したと主張したのは、かのトロイアの遺跡を発見したシュリーマンの孫であるらしい。シュリーマンの名前は聴き終えあるな〜と思っていたら、確か日本にも来たことがある人で、アジア旅行記みたいなの残してなかった?孫も似たようなことやってんだな、と思ったら、シュリーマンと違って孫はだいぶアレだったらしい。とりあえず、地質学的には、大西洋にアトランティスが存在したと言える痕跡はないとのこと。

・超大陸パンゲア。元々大陸は一つだった。プレートテクトニクス論で補強されたのね。この本を見ながらGoogle Earthで日本のプレートも見てみたんだけど、こんなの怖すぎんか?こんなズレの隙間にぎゅうぎゅうにプレートを詰められたら、地震なんて起きるに決まってるんだよな。

・山の出来かたは大まかに2種。火山の噴火でできるタイプ(例:富士山)、地面にしわがよってできるタイプ(例:日本で2番目に高い山、北岳)。なんとなくなんだけど、地面にしわが寄ってできるタイプは、崖があったり、上下の高低差が激しい地形が多そうで、登山家の漫画『孤高の人』の主人公が、日本一高い富士山より2番目に高い北岳を攻めていたのはこういう理由なのかも!と今になって納得してしまった。

・磁石のS極、N極の話。地球を大きな磁石として捉えたとき、北(North)がN極、南(South)がS極であろうと思い込んで疑っていなかったのだが、実際のところ現在は、「N極が南」「S極は北」とのこと。そんなことある!?!?じゃあSとNはなんの略だよ!?紛らわしいなあ!と思っていたら、そもそも地球の磁極は反転することがあるらしい。77万年前にひっくり返ったり、258万年くらいに更にひっくり返ったりしていたというのが地層の状況で分かったとのこと。これが一番びっくりした話かもしれない。

・スノーボールアース仮説。これは有名なやつだ!解説動画で見たことがある。過去に地球の平均温度が−40度になったことがあるってやつね。なぜ地球が全て凍りついたのかは原因が特定できないようだけど、その地球が凍りついた状態から温暖な気候に戻るまでに発揮した温室効果ガスの効力というか、そういうものが少しは理解できるようになる話だった。あとは、やっぱ極端に寒くなると生物は絶滅期に入るが、同時に環境の変化は強力なターニングポイントにもなる傾向にある、というのも面白かった。これはこの本の話にはないのだが、恐竜は人間史よりも長く種として生きていたが、人間ほどの知能を持たなかった。温暖な気候だと植物が繁栄し、食糧に困らなくなるので、知能をあげずとも生きていける。しかし、寒くなると食糧の取得が困難になってゆき、生きるための工夫や、食い扶持を減らすための同種の間引きが必要になっていき、それが人間が知恵をつける要因の一つになったのではないかという話もあったような気もする。面白い。

・最後の方に、火星のテラフォーミングについての話も出てきた。「Surviving Mars」という火星テラフォーミングゲームに熱中していた時期があり、楽しく読めたのだが、やっぱ色々現実的ではなさそうだなあ。火星をテラフォーミングして移住してみよっか!みたいなのは、大体地球の資源が枯渇するとか環境が悪化するとか、そういうのが主な要因となると思うのだが(人口爆発の可能性はもう無くなってきたしな)、その上でどえらい量の地球資源を使って火星を開発する前に、まだやることがあるのでは…‥火星調査の人間がいくのはいいが……みたいな空想に時間を使ってしまった。やっぱ人間こういうのが好きなんだろうな。

以上!