「哲学・思想・倫理」の記事一覧

遠くにあればより美しく、近くにあればより醜く見えるもの

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ほんとうの多様性についての話をしよう / サンドラ・ヘフェリン

この本を見た時、「そういえば『僕はイエローでホワイトでちょっとブルー』と『みんな違ってみんないいのか? ――相対主義と普遍主義の問題』を読んでないなあ……」とぼんやり思い出し、表紙とタイトルからしておそらく国際なんとか移民なんとかのテーマだろうとあたりをつけて手に取った。普段興味がないジャンルだから、一度くらいはちゃんと読んでおくか!みたいな。

著者のサンドラ・ヘフェリンさんは、日本人とドイツ人のハーフの方で、どちらの国にもルーツを持ち、その立場から、ハーフ・多文化共存についていくつか執筆活動をされているそう。語り口は易しく、大人から子供まで理解のしやすい文面で構成されているが、著者の取り扱うテーマがテーマなので一通り考えさせられる。例えば、私はこの本の著者名を見ただけで「サンドラ・ヘフェリンさん……和訳本だろうな」と先入観が働いた。実際には、著者は日本人でもあるので普通に自身の国の言葉語で書いており、訳者を通した訳ではなく、私が名前のカタカナだけで著者に外国人判定をしたのだが、そういうことは日本でよくあるそう。著者は白人寄りの外見をしており、日本に20年以上住んでいるにも関わらず(日本国籍もパスポートで証明できる)、役所や銀行で外国人扱いを受けてスムーズに手続きをさせて貰えなかったり、親切そうなおばあちゃんに「日本の折り紙って、わかる?上げるわね」と外国人としておもてなしされて複雑な思いを抱いたり、外見だけで判断されることが多々あるそう。外国人にしか見えない日本人、逆に日本人にしか見えない外国人など様々な人がいることを、日本人は普段意識して生活していないので、ほぼ外見から判断する。日本は確かにそういう国だなあ。移民の受け入れも積極的ではないので、日本人っぽくない外見であれば、私もそういう対応をしてしまうかも。人を見かけで判断するなという言葉は簡単に出てくるが、実際には環境と頻度・慣れの問題かと考えるので(自分の周りにそういうルーツの人がいないと、完全に他人事になってしまい、咄嗟に出てくるのが思考停止した反応になってしまいがち)、私もこれを機に気をつけたい。本の良いところは、こういう知識を得られるところ(覚えていればいざという時役に立つ)だよな。
とはいえ、移民受入に積極的でいろんな手を尽くしている国も差別的な意識が全く無い訳でもなく、結局は人間は他人からの影響を受けやすいことを理解する必要がある、とのこと。これも分かる。人はその場の雰囲気や世間に流されるので、その世間の根底に差別的な風潮があるのであれば、特に思考は働かない。寄付を募るポスターでよく見る「貧困層と思われる痩せすぎの黒人の子供」は反射的に哀れに思うのに、「在日朝鮮人」に対してはいい感情が働かないなど、国籍のイメージや外見で人をその場の雰囲気で判断しがち。この雰囲気自体を良いものにしていくためにも、ひとりひとり意識を持つことが望ましい、ということかな。自分の当たり前は、自分以外の常識ではない。また、逆に自分の国について誤解されているときは、きちんとノーを突きつける。誤解を誤解のままにしておくと、その雰囲気がますます常識となる。多様性というものは、何でもかんでも「みんな違ってみんないいよね」と受け入れることではない。その一言で終わる思考停止は、隔離や拒絶に近い。むしろ、互いに衝突が起きていることの方が、理解が進むので望ましい。

イスラム教では名誉殺人を暗黙に認める風潮がある。移民となったイスラム教の家族の父親が娘を殺すことが、受け入れしたドイツ内ではよく起こったらしく(ドイツ人に誘われて婚前交渉をした娘を家族の名誉回復のために殺す)、そういうことを「イスラム教はこういう文化だからね」とただ受け入れるのではなく「この国はいかなる理由によっても殺人は絶対に容認しない、殺人は殺人として取り扱う。また、我が国は男女平等であり、この国に来たからにはルールに従ってもらう。性別によって親に強制結婚させられたり、教育を受けられないなんてことはあってはならない」とハッキリ表明する。そして、そのルールを教えるための教習もきっちり受けもらう。相手側から「我が国、宗教では当たり前のことだ!お前の国はうちの宗教を軽視しているのか?」と言われてもノーを突きつける。そういう衝突を繰り返し、すり寄せする作業を、確かに日本人は(というか私は)面倒だと感じてしまうだろうなあ……。この辺りの自覚や意識が出来ただけでも、この本を読んだ甲斐があったと思う。

別件だけど、先日読んだ『絵本のお菓子』に出てきた絵本『ちびくろさんぼ』、やっぱ黒人差別的な表現で問題になったんだ?この本でも話が出て出てきたので、Wikiで軽く読んだ感じ、人種差別や著者権無視が世界で横行した挙句、一斉絶版問題が起きとる……。人種差別云々のテーマは得意ではないので、気は進まないが、気が進まないからこそチラッとだけでも、また調べておくかあ……。

ノーベル賞受賞者覚えていなさすぎ問題

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創造的人間 / 湯川秀樹

日本人初のノーベル受賞者と名高い湯川秀樹先生の著書、とはいうものの、何を専攻されていたのかまるで覚えていない。アインシュタインと既知だったみたいな話を聞いた覚えはあるので、物理学で志を共にしたか、もしくは量子力学でサイコロ投げ合ってバトったとか、まあ多分その辺りなのでは……とアタリをつけたが、ググったところ「理論物理学、中性子の存在を予言して理論の正しさを証明してノーベル賞を受賞した」とのこと。なるほど(分かってない)。でも、このようなゴリゴリの理学博士が『創造的人間』について語る内容には興味があるなと思った次第である。

そういうわけでこの本を読み始めたのだが、めちゃくちゃいい持論が書かれている。
意訳にはなるが、1965年の時点で「科学文明とは、人間の頭と手を通して出来た第二の自然である」「エックス線や原子力という、偉大な発見だがあまりにも急性に実用を進めすぎた結果被った、予想外の被害、ひいては基礎研究の重要さ」「機械の方がいくつか優れている箇所があり、それに人間は負けじと頭の回転を競うのではなく、反射的な素早い行動については機械に任せ、じっくりと時間がかかる総合的な判断は人間が行えばいい。しかし機械の方が有能になる未来は遠からずくるだろう、その時人間のなすべきことは何か?」「良かれ悪しかれ、刺激の多い文明となった。目に耳に入ってくる情報量が多すぎる。そういう諸々が私たちの大きな悩みの種となる」などなど意見が出ていた。やっぱり学者というのは先々のことまで考えているものだなあと感心した。まだ50Pしか読んでないのだが、咀嚼するのに時間がかかり、ここまで読むのに一週間はかかってしまった。355Pまであるっぽいので、また、ちまちまと読み進めていきたい。

むずかしいぜ

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〈知〉の取扱説明書 / 仲正昌樹

ググりさえすれば知識が手に入れられると思っているが、その実、身につける努力をしなかったものは知とならず、血肉にもならず、その場しのぎになってしまう、みたいなのは同意できるな〜と思ったので手に取った。
ただ、著書である大学の先生の煽り散らかしてる文章と、Twitter民に親でも殺されたんかな……と気になる攻撃な姿勢、古の(笑)連打が気になってしまい、とりあえず目次で気になったページだけパラパラ見ることにしたのだが、どのページでも「この先生はずっとこういう態度なんだな……」という印象になってしまい、途中で閉じてしまった。タイトルと表紙から感じた印象と、本文がちょっとミスマッチしているように思える。

ある意味、著者の方は、人間の可能性に対して基準が高いのだろうか?もっと思考を深くすれば人はここまでできるのに、なんで皆考えないんだろう、もっと考えて生きればいいのに、というようなもどかしい思いをしているのかもしれない。親が自分の子供に良かれと思って「後悔しないようにもっと勉強しなさい」「もっと人と付き合い、話に耳を傾けなさい」「もっと本を読みなさい」と、自分の人生から得た教訓が、子の人生においても最適解のはずだと思ってアドバイスするのと似ている。その気持ちは分からんでもないなあ。ただ、アドバイスする内容が正しければいいというものではないからな……。なんかこう、本当にその人のためを思うのであれば、もっと心に響きやすくなるような、脳に刻みつけたいと思えるようなものの言い方とか……他人の愚かさに対しては耐えて態度に出さず、ただ人徳みたいなもので諭す必要があるんじゃないかと考える。そんなことを思った本だった。自分も気をつけよう。