母が山形は庄内の出身であり、庄内の美味しいお米に『つや姫』というブランドがあることを誇っているため、実家に帰ると大体この『つや姫』を食することになる。ちょっと細長い感じの米粒に輝く艶、噛めばしっかりとした旨味とほんのりした甘みを交互に感じ、僅かな雑味が味の広がりと奥行きを支える、庄内が誇る滋養に満ちた米である。当然うまい。私もこの米でお粥を食うのが大好き。でもまさか、こんなピンで本を出すほど知名度がある米かと問われれば、一瞬考え込んでしまうので、まあ、せめて私が理解者になってやるか……という使命感で手に取ってしまった。そんなに?
まずタイトルに突っ込みたいんだけど「10万分の1の米」ってなんだよ、と思ったらすぐ答えに辿り着いてしまった。山形県鶴岡市の「県農業総合研究センター水田農場試験場」という、国のお膝元で次世代のブランド米を作るために試行錯誤し、その配合の過程で一つ一つ個体を選り抜く必要があって、結果10万本の稲から選定し生まれたブランド米が『つや姫』ということらしい。
元々、山形には『ササニシキ』や『はえぬき』という美味しいお米があるのだが、『あきたこまち』や『コシヒカリ』と比較した際、それらより評価が下回り、低い価格がついたことがあった。次世代のエースとして十分に戦える味だと自負していたが、ブランド米としての戦略が十分でなかったとも言える。その反省を生かして、米自身のおいしさはもとより、冷害や病気に対する耐性、収穫量や味の安定諸々をしっかり吟味した品種を育てた上、きちんと購入ターゲット層を定め、販売開始前からのPR活動も徹底したとのこと。
まずPR活動の一環として、『つや姫』の名称も公募と投票の上で知事が決定したらしい。男性人気は『山形97号』、女性人気は『つや姫』にあり、どちらにするかで悩んだそうだ。『山形97号』は、しっかりと山形の産地だということをアピールできるということで強く推されていたが(人気1位だった)、『つや姫』は購入ターゲット層である主婦からの支持が厚く(つやがあり、大事に育てられた米のイメージを期待できる)、結果、『つや姫』と名称が決定された。その後、知事が先頭を切ってPRに勤しみ、アンテナショップで先行販売、考え抜かれたパッケージデザイン、キャッチフレーズ、そして何より味が決め手となって、山形のトップブランド米の地位を確立したらしい。
東日本大震災のこともあり、放射能の被曝といった風評を受けるアクシデントもあったが、「消費者は、美味しいお米を、そして何より安全なお米を求めている」とセシウム検査を入念に行なったりして、乗り越えていった、と。
いやー、すごかった。この本の何がすごいって、つや姫の成り立ちもそうなんだけど、それ以前に著者の狂気という名の熱量がすごい。推しの米のこと、本一冊になるくらいの熱量で書くことなんてある?狂気の沙汰だよ……(小声)(失礼)
他、面白かったのは次の箇所。
・ウソだろ、突然芋煮会の話を挟んできたぞ!これは米の話の本のはずだが!?!?!?
・つや姫を育てる米農家・鈴木さんの熱いコメントが出たかと思ったら最後に「息子はお笑い芸人のウド鈴木さんで、ウド鈴木さんはつや姫の観光大使をしている」という補足情報
・「西洋人女性として初めて東北を旅行した英国人旅行家イザベラ・バードは『日本奥地紀行』に「東洋のアルカディア(理想郷)」と書き記している」の文章、同じ流れで、忘れかけた頃に計2回出てきたのなに?
・ヤマセ!日本の地理の学習をしていたら必ず出てくるヤマセ!(太平洋側で春から夏に吹いてくる偏東風)放射能を持ってくるかもしれないこのヤマセを、山形の霊峰や奥羽山脈は必ず守ってくれると信じていた……みたいなコメントに、胸が熱くなってしまった。地理…勉強し直してみてよかった!ヤマセと、奥羽山脈がわかるもん!(そこ?)
親族が山形・庄内におり、私自身もつや姫が好きというポイントだけで最大限楽しんでしまった。
下は、この本を読む前に呟いてたコメント。
やっぱ山形市と鶴岡市では、芋煮に対する情熱が違う気がするんだよなあ。