水色チェックマークのあるタイトル作品のネタバレを含みます
日本の都道府県の位置を当てる地理クイズで、九州の各県の配置を「長崎→佐賀→福岡でシュガーロード」という覚え方をしたことと、ポルトガル史をちまちま追いかけている最中だったため、視界に入った本。本の内容は概ねタイトル通りなのだが、本の説明書きがあったものをそのまま引用すると『歴史研究者が、料理に関わる史料を丹念にたどり、日本人と砂糖の出合いから、さまざまな料理に砂糖が利用され、受容されてゆくさまを描き出す。』となる。
全然関係ないんだけど、史学をやっている人は「受容史」という考え方があると古代ギリシャ研究家の藤村シシン先生の動画で聞いた覚えがあるので、この言葉が視界に入った瞬間テンションが上がってしまった。受容というのは、それがどのようにして、その国の人々の文化として受け入れられたか?みたいな歴史だったような気がする(とても浅い知識)
本を読む前に、癖で「なんとなくこんな感じの内容かなあ」と、いつもうっすら想像しているのだが、今回は次の通りの予想しかできなかった。
・南蛮貿易で大量に入ってきたはず(シュガーロード)、そのあたりから庶民に流通したと思う
・とはいえ砂糖の糖は中国の唐に当たるので、それより前に中国から仕入れていたことはあったはず、おそらく当初は薬として用いられた。
・沖縄でサトウキビをめちゃくちゃ作ってる印象がある。琉球国からも入ってきた?
では読むか!いざ鎌倉!
砂糖の日本史 / 江後迪子
初っ端から「鑑真が砂糖を聖武天皇に献上し、それが正倉院文書に記載されているのはよく知られた史実である」とあるが、知らないが?そしてまた出てきたよ鑑真!砂糖の糖は、唐の字があるから中国由来ではあるんだろうなと思ったけれど、またここで出で来たか鑑真!私が読む本の中で、柳田國男先生の次くらいにエンカウント率が高いのよ。
日本における砂糖の歴史は、ざっくりと次のとおり。
▼日本の砂糖
・砂糖は中国から伝播したと思われる。鑑真や遣唐使の経由。正倉院の献納リストに砂糖(蔗糖)の記録が残っている。この時代の砂糖の価値は、めちゃくちゃ高い。(西暦825年くらい?)
・勘合貿易で継続して中国から輸入。
・江戸時代に入ると南蛮貿易が始まり、大量に輸入が可能になる。南蛮菓子の普及。
・砂糖の生産については、外国からの輸入に依存するのではなく、国内生産に切り替えようとしていたのだが、日本の気候や土壌はサトウキビなどの砂糖の原料となる植物の育成に向いてないっぽく、何度も育成試しては頓挫している(砂糖の原産地は、インドまたは南太平洋諸島といわれているようなので、さもありなん)。国産の砂糖が作られたのは1620年、直川智という人が中国に渡って製糖技術を学び、ショ糖の苗を持ち帰り、黒糖を作ったとのこと(ただ国産とはいうが、この時代、沖縄は日本ではない。あとやっぱ砂糖の原料は暑いところじゃないと育たないのかなという印象)
▼砂糖周りのメモ
・砂糖以前に普及していた甘味は、冬のツタの樹液を煮詰めた、非常に手間のかかる「甘葛煎(あまづらせん)」というものだった。『枕草子』に「けずり氷にあまづら入れて」という記述がある。(枕草子は西暦1000年くらい)
・ミツバチから作る蜂蜜という甘味の存在は知られていたが、外国から仕入れたミツバチは日本で繁殖しなかった(じゃあニホンミツバチって一体なんなんだよ!?!?)
・最初の頃、砂糖は苦い薬を飲む時に合わせて使われ、そのうち砂糖餅などの甘味に、茶席に、そして懐石料理に、庶民の菓子に、南蛮菓子に、との広まりを見せた……ということでいいのだろうか?
・豆知識として、卵を食べる文化は、基本的には南蛮菓子の普及に伴ってのことらしい。ふわふわ甘いお菓子にはどうしても卵がいるからね……。それ以前は、『日本霊異記』という書物に「今身に鶏の子を焼き煮るものは、死して灰川地獄に墜つ」とメチャクチャストレートに卵を食うなと書かれていたそうなので、普及していなかったそう。
・徳川幕府が後水尾天皇に「玉子ふわふわ」なる料理でもてなした話が面白かった。玉子ふわふわ!
・南蛮貿易では、ポルトガルなどの宣教師やってきては、甘い菓子で入信を誘ったという。巧妙すぎる……。ギブミーチョコレートの根性がこの時代から植え付けられてる。やっぱ甘いもんには屈するしかないんだなあ。
・全然関係ないんだけど、正倉院の献納リストに「はじかみ」ってあったのだが、はじかみってなんだろう。『ういろう売り』でも「はじかみ」って出てきたよな。と思ってググってみたら、はじかみ=生姜の類だった。甘味に関係がなかった。
・土用の日に食すものといえば、今は鰻が一般的だが、昔は砂糖(氷砂糖)だったらしい。へえ~
以上。途中から、史料で確認できた目録や献立、その解説が大量に出てくるので、ちょっと……割と……けっこう読み飛ばしてしまった。厳密な資料とかには、興味を持って読めるだけの力量が、今の私には無くてだな……。でも基本的に、面白いところだけ読んだから、とても面白かった。楽な方へ逃げるな。